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ブラジル、PK戦でチリを下し8強へ!
「対極」の戦術が生んだ極上の死闘。
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byGetty Images
posted2014/06/29 12:30
自らが5人目のキッカーとなったPK戦でチリとの死闘に勝利をおさめ、ネイマールは安堵の涙を流した。満場の王国の民のサポートは、激烈なプレッシャーともなりうるのだ。
ブラジルの“チリ対策”も機能していた。
もっとも、ブラジルの“チリ対策”も有効に機能していた。
特にフッキ、の高い位置を取ってサイドのスペースを突くポジショニングと、フィジカルの強さを活かしてそこに割ってはいろうとするドリブルは見事だった。ネイマールをトップ下に置いたのも、おそらく同じ狙いを持ってのことだろう。最も突破力のあるネイマールにボールを集めてチリの守備を中央に寄せ、サイドに展開してドリブルで仕掛ける。
左サイドのフッキや右サイドのオスカルだけではなく、ボランチのルイス・グスタボまでもがドリブルを仕掛けてサイドのスペースを突こうとする姿勢に、ブラジルのチリ対策が見て取れた。
この試合、ブラジルは9本のCKを獲得し、39本のクロスを上げた。チリのハイプレスに苦しめられたとはいえ、サイドを攻略するという狙いは十分な成果を残したと言える。18分、CKから生まれた先制点は“チリ対策”としてまさに理想的なゴールだった。
一方、チリの同点ゴールもまさに理想的な形だった。敵陣深くで相手のスローインをカットしたエドゥアルド・バルガスが、中央へのラストパス。アレクシス・サンチェスがこれを冷静に流し込み、試合を振り出しに戻す。たった一つのミスが失点につながる恐怖心を植えつけたことで、チリは再びメンタル的な余裕を取り戻した。
スタッツにも現れた、全く互角の戦い。
後半、そして延長も両者のテンションは全く衰えなかった。
ボール奪取はブラジルが「66回」でチリが「63回」。ボールロストは、ブラジルが「116回」でチリが「113回」。さらにボールポゼッションではブラジルが49パーセントでチリが51パーセントと、スタイルの違いはあれ、まさに互角の展開だったと言える。試合終盤はカウンターを最も得意とするブラジルが攻撃に人数をかけられず、ハイプレスを身上とするチリが“追い切れない”というシーンが何度も見られた。つまり両者とも、最後はスタイルを維持できなくなるほど死力を尽くした。
「ブラジルは痛みを伴うことになる」
半年前に指揮官スコラーリが発した言葉の意味が、準々決勝以降にどのような影響を及ぼすかは分からない。チリの「フルインテンシティ」に対抗するために費やした120分間分の体力は、選手たちに相当なダメージとして残るだろう。準々決勝では、中盤の要として機能したルイス・グスタボを累積警告による出場停止処分で欠くことになる。想像以上の難敵を退けたという安堵感が、思わぬ落とし穴となる可能性も決して小さくない。