オフサイド・トリップBACK NUMBER
センターバックは世界的な人材不足。
次世代型のスター選手が出ない理由。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2011/01/24 10:30
カンテラ育ちだが、マンUでプレーしていたこともあるピケ。マンUでもバルサでもCL優勝を果たしているという素晴らしい経歴を誇る
闘莉王は右膝、中澤は左膝の靭帯損傷で出場不可。それではと期待された「第3の男」、槙野も練習中に足首を捻挫してしまう。アジアカップを前にしたザッケローニは、センターバックの人材難にさんざん頭を悩ませることとなった。
その結果、吉田麻也が起用され、ヨルダン戦で良くも悪くも印象に残るプレーを披露したわけだが、センターバックの不在に悩んでいるのは日本代表だけではない。アジアカップに参加したチームを見渡しても、これといった逸材はいないし、今や「センターバックの消滅」は、世界的な傾向にさえなっている。
まずは昨夏のW杯南ア大会。
エジルやミュラー等々、攻撃陣の新星を覚えている人はいても、記憶に残ったセンターバックは? と問われて、即答できる人が何人いるだろうか。
欧州CLも同様だ。
昨シーズンはインテルを率いていたモウリーニョがゴール前にバスを停めて(ディフェンダーを並べて)戴冠を果たした。ルシオやサムエルなどの貢献は大きかったが、彼らはとうに見慣れたベテランだったし、一人で拍手喝采を集める花形というよりは、モウリーニョの「ピース(駒)」という印象の方が強かった。W杯であれ欧州CLであれ、センターバックの選手が真の意味でスポットライトを浴びたケースは、2006年前後のカンナバーロが最後だったといっても過言ではない。
守備の要たるセンターバックに必要なのは身長よりも経験だ。
なぜセンターバックのスターはなかなか現れないのか。
一つ目の要因は経験値だ。
フォワードやミッドフィルダーに比べ、ディフェンダーの育成には時間がかかる。守備を統率しなければならないセンターバックとなると、求められる経験値のハードルはさらに高くなる。マンUがセンターバック探しに苦労していた頃、ファーガソンには、なぜ長身のオシェイを抜擢しないのかという質問が飛んだが、彼の答えは明瞭簡潔だった。
「守備の要には何よりも経験が必要だ。体が大きければいいというものではない」
たしかにヨーロッパをよく探せば、将来が楽しみな若手のセンターバックはいる。香川のチームメイトでもあるドルトムントのフンメルスなどは、ドイツサッカー界を背負って立つ選手になる可能性があるし、FIFAが同じく香川と共に2011年の注目選手に挙げたインテルのラノッキアにも、カルチョの守備を建て直してくれるのではないかという期待が集まる。だが彼らとて、欧州の「顔役」になるのにはもう少し時間がかかる。