オフサイド・トリップBACK NUMBER
センターバックは世界的な人材不足。
次世代型のスター選手が出ない理由。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2011/01/24 10:30
カンテラ育ちだが、マンUでプレーしていたこともあるピケ。マンUでもバルサでもCL優勝を果たしているという素晴らしい経歴を誇る
現代サッカーに求められるセンターバックの資質とは?
二つ目の理由は、センターバックに求められる資質の変化だ。
かつてのセンターバックは見上げるほど背が高く、鋼のように頑健な肉体を持ち、そして周囲の人間が思わず沈黙してしまうような威圧的なオーラを放つタイプというイメージが強かった。昔日のスタム(元マンU)などは典型例だったといえる。
これらの古典的なセンターバックは絶滅種に近い。
バルサのジェラール・ピケに代表されるように、今日のセンターバックは、GKの前に位置する最後の砦となるのはもちろん、ボランチに代わって攻撃の組み立て役になったり、中盤をバイパスして敵陣の両サイドの深い位置まで、一気にロングフィードを行う能力も求められる。そればかりか攻撃陣が手詰まりに陥ったときには、機動力を活かしてごく当たり前のように敵のペナルティエリアの周辺まで上がり、オープンプレーからチャンスメイクをしたり、自らゴールを狙ったりしなければならない(厳密を期すならば、伝統的にセンターバックは、巨体を駆使して敵の攻撃を跳ね返す「ストッパー」と、こぼれたボールのケアやパス出しを行う「リベロ/スウィーパー」に分類されてきた。最先端のセンターバックは、両者のハイブリットとして捉えることもできる)。
「CBは技術的に劣る」という“聖人”の託宣はもはや時代後れに。
バルサの“聖人”クライフは、2006年のW杯ドイツ大会で、次のように述べたという。
「一般的に、センターバックは技術的に劣ることが多い。それはそうだろう。うまかったらFWかMFをやっている。だから、彼らには攻撃の組み立てをやらせるべきではないんだ」(『クライフ哲学ノススメ』木崎伸也・若水大樹著/白夜書房)
彼は今頃、自分の託宣を後悔しているだろう。センターバックはクライフのステレオタイプを超えて進化しているからだ。しかも皮肉なことに、進化の先陣を切っているのはバルサでありピケなのである。
ただし当のバルサでさえ、ピケのような人材を新たに発掘・育成するのには苦労している。FWやMFに比べてDFの世代交代はただでさえ難しい。ましてや身長も運動能力も高く、それでいて足元の技術も必要だとなれば、おいそれと新世代のセンターバックがみつからないのは無理のないことかもしれない。