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<ボストンで得た自信と信頼> 田澤純一 「パワーピッチで堂々と」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byYukihito Taguchi
posted2014/05/12 11:00
「上原さんの気持ちの切り換え、勉強になります」
2年目に右ひじの手術を受けたために当初の予定より1年遅れたが、4年の育成期間を経て、田澤の挑戦はしっかりと結実したのである。米国5年目の昨季は初めてフルシーズン、メジャーに帯同して71試合に登板、5勝4敗25ホールドをマークした。68回3分の1の投球回を上回る72個の三振を奪うパワーピッチで、絶対守護神・上原浩治投手へとつなぐセットアッパーとして、首脳陣の絶大な信頼を勝ち取ることに成功した。
「上原さんの気持ちの切り換え、勉強になります」
田澤は言う。
「ボクはいい内容なのに打たれると、精神的に引きずって、次の試合で何かを変えてしまったりして、かえって結果を悪くすることがあった。今年はその切り換えをうまくやることが課題ですね」
日々、周りを見て、いいものはどんどん吸収して大きくなってきた。自分の力に自信を持てなかったからこそ飛び込んだアメリカの野球が、田澤にとっては自分を成長させてくれる“父親”だったのである。
論理的に説明されて“真っ向勝負”の意味が分かった。
「実はボクもアメリカに来た最初は、初球を真っすぐから入るのには不信感がありました。真っすぐを待っている相手に、なぜ真っすぐを放るのか。それなら変化球で入った方がいいんじゃないかという思いはありました」
1年目の'09年、2Aのポートランドでは常に初球に真っすぐを要求され、当時のアーニー・ベイラー監督に直談判したことがある。
「でも、データで示された。もちろん真っすぐを投げて打たれることもある。でも、確率的には非常に低いというデータでした」
むしろ変化球でカウントを悪くして、打ち込まれるケースの方が多い。「だからアメリカではストレートが基本なんだよ」と教えられた。
「そういう風に教えてもらって初めて、真っ向勝負の意味が自分でも分かったんです。それで抑えたときって凄く気持ちいい。それに色んな国から来ているいいバッターに、僕の力がどれだけ通用するのか? それを試せるだけでもプラスだと思っています」