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250本ペースでも不満顔の内川聖一。
打撃の哲学者が追求する「理想像」。
text by

田口元義Genki Taguchi
photograph byNanae Suzuki
posted2014/04/28 12:00

月間安打記録にも挑戦している内川聖一。日本を代表するヒットメーカーの技術は、細部までこだわりが詰まっている。
ソフトバンク移籍2年目、開幕後は不調に陥ったが……。
一事が万事、内川の打撃を形成してきたのは、積み重ねなのだ。
'08年の覚醒で満足せず、細かな技術をひとつずつ習得してきたからこそ、弱いメンタルも受け入れられるようになったのだろう。
'12年からの2年間は、それが顕著に現れていた。
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ソフトバンク移籍1年目の'11年は3割3分8厘で2度目の首位打者となり、チームの日本一にも大きく貢献した。だが、'12年は、「去年よりも打たないと」という想いが空回りし開幕から低迷。6月29日には2割5分7厘まで数字を落としてしまった。
小久保裕紀の激励で内川の打棒は再び輝きを取り戻した。
そんな時、内川の救いとなったのが、当時主将を務めていた小久保裕紀の言葉だった。
「悩みのレベルは人によって違う。今の聖一は2割5分7厘だけど、生涯打率が2割7分そこそこの俺からすれば、そんなに悪い数字じゃない。周りは『打てない』と騒ぐだろうけど、それはお前だから言われるんだ」
小久保の激励によって生気を取り戻した内川は、8月に右手薬指をはく離骨折しても試合に出続けた。それどころか、「むしろ、シンプルにバットが振れるようになった」とアクシデントすら前向きに捉え、ギリギリながら3割の大台に乗せることができた。
昨年も、7月に右第3、4、5肋骨骨折という怪我を抱えながらシーズンフル出場を果たし、3割1分6厘と高い数字をマークした。
内川は、その2年をしみじみと回想する。
「成功もあるかもしれないけど、どちらかと言うと、人から見れば嫌な経験ばっかりしてきたような気もします。だからこそ、そういうのも含めて、『全部、自分のプラスに変えてやろう』って思うんですよ。今年は特にその意識は強いですね」