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250本ペースでも不満顔の内川聖一。
打撃の哲学者が追求する「理想像」。  

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byNanae Suzuki

posted2014/04/28 12:00

250本ペースでも不満顔の内川聖一。打撃の哲学者が追求する「理想像」。 <Number Web> photograph by Nanae Suzuki

月間安打記録にも挑戦している内川聖一。日本を代表するヒットメーカーの技術は、細部までこだわりが詰まっている。

試合なんか「楽しめるわけねぇだろ!」と思うんです。

「あの、僕、基本的に強くないんですよ、メンタル。例えば、最近の若い選手って『試合を楽しみます』って言うじゃないですか。僕からすれば、『楽しめるわけねぇだろ!』って思うんですよ。やっぱり144試合全部で緊張するし、試合前なんかは『打てんかったら嫌やなぁ』とか不安になりますからね」

 メンタルの弱さを認めながら、しっかりと結果を残しているではないか。そう問いかけると解答については、「弱い自分を受け入れること」だと内川は述べる。

「それも自分なんで。よく、緊張していたりすると『落ち着け。普段通りにやれば大丈夫だから』って言ってくれる人がいるじゃないですか。その言葉自体はありがたく受け取るんですけど、でも実際は、“普段通りにできない”のが僕の普段なんですよ。だから、『いつも通りにやろう』って自分に言い聞かせることにエネルギーを使うくらいなら、緊張したり不安な自分を受け入れたほうがいいというか。

 いずれにしたって打席に入ったら逃げ場がないんで、そこで『よっしゃ! やってやるぞ!!』って腹を括ることに集中したほうが僕はいいと思っているんですよ」

 しかしながら、気持ちだけで超一流になれるほどプロ野球の世界は甘くない。当然、内川には確固たるバックボーンが存在するのだ。

 それは技術である。「球界屈指」と称される打撃技術が内川聖一の強力な基盤と言えるだろうし、本人も「技術に関してはそうですね」と認めている。

センスだけの打者・内川を変えた杉村繁コーチの存在。

 技術覚醒の黎明期は横浜(現DeNA)時代の'08年。杉村繁が打撃コーチとしてヤクルトから移ってきたことが大きな転機となった。

 それまでの内川は、極端に表現すればセンスだけで打っているような選手。ミートポイントを手前にし、強引に引っ張る。そのスタイルである程度は結果を残せていたし、誰からも欠点を指摘されることもなかった。

 ところが、'07年になると納得いくパフォーマンスが見せられず、ファーム落ちの屈辱も味わった。「俺は、チームから必要とされていない」と危機感を抱くようになり、オフには母親に「今年で辞める」とまで告げた。

 初めてと言っていいほどの強烈な挫折。そんな時に出会ったのが杉村だった。

【次ページ】 「お前の得意な打撃をさせて打ち取ろうとしていたんだ」

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