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<僕はこんなものを食べてきた> イチロー 「超こだわりの食伝説」 

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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photograph byNaoya Sanuki

posted2011/01/20 08:00

<僕はこんなものを食べてきた> イチロー 「超こだわりの食伝説」<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

ユンケルは毎日16年間、一日も欠かさない。

 イチローの食へのこだわりは、彼の価値観を映す鏡だったりする。たとえば、こうだ。

「箸はキレイに持ちたい。力が入ってガチッと握ったら、キレイじゃない。やわらかく握ったほうがしなやかに見えるはずなんです。アスリートが、箸をキレイに持つというのが、いいじゃないですか。アスリートがゴツゴツした手で豪快に食べたら、想像通りで、おもしろくないでしょう」

 最近になって、イチローは珈琲にはまっている。ずっと紅茶党だったイチローにしてみれば、これはとんでもない変化である。

「半分はブラックで飲んで、途中から少し砂糖を入れます。珈琲の世界は奥が深くて、おもしろそうですね。ビールはここ3、4年、毎日、飲んでいます。ユンケルも毎日、飲んでますよ。これは16年、一日も欠かしたことはありません。あと変わったことといえば……20代の頃みたいに、食後にピオーネを2房食べる、なんてことはなくなりましたね(笑)」

 20歳のイチローと、30歳のイチロー。その変化を、彼はこう表現した。

「20代の頃は、どんぶりものがドーンと出てくる食堂が好きで、コースみたいに順番に出てくるレストランには抵抗がありました。でも、今は美味ければどちらでもいい。食堂を好んでいた頃はスーツを着ることもなかったけど、今はネクタイもするし、スーツも着る。そういう変化が、レストランを受け入れることにつながっているのかもしれません」

「カレーはビーフカレー、蕎麦ならざるそば、パンはクリームパン」

 イチローが興味を示す料理人の一人が、銀座「すきやばし次郎」の店主、85歳の小野二郎さんだ。つけ台を挟んで、つけ場に凜と仁王立ちの二郎さん、背筋を伸ばしてカウンターに座るイチロー――まさにマウンドとバッターボックスの間に漂う、一対一の張りつめた緊張感が、鮨屋の二人に漲る。イチローは、二郎さんの握る鮨をテンポよく口に運び、二郎さんはイチローの食べ方を観察しながら、間合いを計る。

「どんな世界であっても、できあがったときに人が感動するものは芸術品だと思っています。それは歌にしてもお笑いにしても、僕らのプレーもそう。もちろん、二郎さんのお鮨もアートです。すごくやさしいお鮨を握られます」

 そんなイチローが今もって受け入れられないのは、ビーフカレーの中に入っている牛肉と、焼き飯の中に入っているグリーンピース。カレーの中の牛肉はダシガラだからと、まず口にすることはない。グリーンピースは、一粒残らず、器用に皿の隅によける。

「僕はザワザワしたものは好きじゃない。カレーならカツカレー、蕎麦なら天ぷらそば、そういうものはザワザワしています。カレーはビーフカレー、蕎麦ならざるそば、パンはクリームパン……この方がシンプルでしょ」

 そしてシンプルに、イチローは断言した。

「もし腹が出てくるようなことがあったら、僕、すぐに野球、やめますから――」

 この言葉も、都市伝説になるのだろうか。

Number770号 『僕はこんなものを食べてきた。~アスリート最強の食卓~』では、「超こだわりの食伝説」に加え、オフの食卓や愛妻・弓子さんの手料理、“鮨屋のカウンター”への思いなどを語った「食と野球と人生と」や、気になるカレーの話に焦点を当てた「僕とカレーと日本人」など計3本の記事を掲載。「食」を通じて、イチローの秘密に迫った特集になっています。
僕はこんなものを食べてきた。アスリート最強の食卓。
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