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春場所の空気を変えた遠藤と大砂嵐。
大関、横綱の“器”を感じた一番。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byKYODO

posted2014/03/28 10:40

春場所の空気を変えた遠藤と大砂嵐。大関、横綱の“器”を感じた一番。<Number Web> photograph by KYODO

平幕同士の対戦だったが、注目度の高さから、かけられた懸賞は12本。勝った遠藤は6勝9敗、敗れた大砂嵐は8勝6敗1休で場所を終えた。

 大相撲の春場所は大関鶴竜が優勝して横綱昇進を確実にした。鶴竜が横綱ふたりを真っ向勝負で破った相撲はみごとだったし、休場明けの日馬富士も終盤まで無敗で進み復調を感じさせた。白鵬も最後は乱れたが、安定感はさすがだった。若い遠藤が上位陣とぶつかって場内を沸かせたし、ご当所関脇の豪栄道、エジプト出身の大砂嵐の活躍も目立った。平日も満員御礼の出る日があったほどで、久しぶりに土俵にひきつけられた人が多かったのではないか。

 だが、途中まではこれほどの盛り上がりになるとは思わなかった。横綱昇進のかかる鶴竜が早々に1敗してしまったし、期待の遠藤も初日から4連敗と上位の壁に跳ね返された形で場所前の期待はあっさりしぼんだように思えた。

 そうした空気が変ったのは中日の8日目あたりからではなかったか。それもひとつの取り組みがきっかけで場所全体の雰囲気、熱気が変わったように感じた。

場所全体の雰囲気を一変させた、遠藤と大砂嵐の一番。

 その取り組みとは遠藤と大砂嵐の一番である。はじめて横綱、大関全員と当たる番付まで上がり、初日から4連敗と苦しんだ遠藤はそれでも5日目に大関稀勢の里を破ったのをきっかけに3連勝と盛り返して、浮わついた人気だけではないことを示しはじめていた。

 一方の大砂嵐は初日から7連勝と絶好調だった。パワーだけでなく取り口に落ち着きが出てきて、不利な態勢でもしのぐ技術を身につけてきているのがわかった。

 歳も近く、将来の相撲を背負うのは確実なふたりの対戦だけに、8日目の一番は期待が大きかった。こうした「期待の一番」は案外あっけなく決着がつくものだが、このふたりの対戦は短い中に内容の詰まった面白いものになった。

 パワーと長い腕を武器にする大砂嵐は、自分より背の低い遠藤にふところに飛び込まれるのを嫌い突き放して出るだろう。遠藤の側からいえば、その威力のある突きをかいくぐって中に入ることができるかが勝負の分かれ目になる。立会いの前にはそんな予想をしていた。

【次ページ】 「なんという土俵際の魔術師」

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