Jをめぐる冒険BACK NUMBER
俊輔と憲剛、2人の“勝負強さ”観。
J最終節の明暗の続きは、天皇杯へ。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKenzaburo Matsuoka/AFLO
posted2013/12/13 10:30
最終節で明暗を分けた中村俊輔と中村憲剛。35歳と33歳、チーム、そしてJを引っ張る2人の司令塔が天皇杯で再び相見えることはあるのか。
35歳の25番は、常にチームの中心にいた。
彼ほどのキャリアをもってしても「初めて」ということに驚くと同時に、これだけ経験豊富な選手が「この2週間は苦しかった」と言うのだから、追われる立場のプレッシャーがいかに大きいものか、思い知らされた。
今季の横浜をけん引してきたのが中村俊輔であることに疑いの余地はないだろう。
トップ下に君臨する背番号25が味方の足もとにパスをぴたりと合わせ、自らもキャリアハイとなる10ゴールを叩き込んだ。
周りの選手たちも“王様”をより一層輝かせた。中村俊輔が攻撃を組み立てるために下がってくれば、ボランチの中町公祐が上がり、右サイドに流れてボールをキープすれば、兵藤慎剛が中央に潜り込む。前線のマルキーニョスは裏を狙い、逆サイドではドリブルで仕掛けられる齋藤学がサイドチェンジのパスを待っていた。「中村俊輔を生かすための仕組み」は素晴らしく機能していた。
もっとも、そうした攻撃面のオートマチズムと同じくらい大きな武器だったのが、攻撃から守備へと移る意識と寄せの素早さだ。
それを率先して実行していたのが35歳の背番号25だった。ベテランのそうした姿を目にして、それより若い選手が奮起しないわけがない。チーム全体から嗅ぎ取れる切り替えの意識とハードワーク――。それがマリノス躍進の原動力のように見えていた。
追われる立場の重圧が、横浜から“獰猛さ”を奪ったのか。
ところが新潟戦でも、川崎戦でも、目についたのは相手のボール奪取力のほうだった。ボール狩りに対する“獰猛さ”を奪ったものこそ、追われる立場のプレッシャーだったのかもしれない。
「勝たなきゃいけないところで勝てないのは、どこか勝負弱い部分があるから」
中村俊輔の発した言葉は、重く響いた。
勝負強さに関して言えば、川崎にとっても他人事ではないだろう。
これまでの川崎はリーグ2位が3回、ナビスコ準優勝も3回と、あと一歩のところまで迫りながら、タイトルを手中にしていない。