野球クロスロードBACK NUMBER
1万人を集めた盛況のトライアウト。
“独立L組”木田、小林宏の心模様。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2013/11/11 11:40
打者4人に対して安打性の当たりを許さず、経験値の高さを見せた木田(左)と小林宏(右)。現地視察に来た中日・落合GMは選手名こそ明言しなかったが「ここにいちゃいけないメンバーがいた」とトライアウトを総括した。
「最後かもしれないマウンドで、ファンの声が聞こえた」
今回が初参加となった阪神の林威助も、加藤と同じように感謝の想いを口にする。
「たくさんのお客さんがいてビックリしました。戦力外となってしまった僕に、『リン、頑張れよ!』と言ってもらえるのはありがたいです。また、こういう温かい雰囲気のなかで野球がやりたいと思いました」
彼らはもちろん、他の選手にしても合同トライアウトのイベント化に対して大半が肯定的な意見だった。
「プロとして最後のマウンドかもしれないなかで、ファンの声が多く聞こえた。『やることはやろう』と力が入りました」(ソフトバンク・山本省吾)
「トライアウトが注目されていることは知っていたので、今後への勉強というか経験してみたかったので来ました。こういう場所でファンに応援してもらえるのはありがたい。自分自身に納得することができました」(楽天・高須洋介)
参加者の声を聞けば聞くほど思う。戦力外になってもプロ野球選手はファンから愛される存在であること。そして何より、プロ野球という環境が恵まれているということを。
独立リーグ所属とNPB、2つの「プロ」リーグ。
この合同トライアウトの場では、恵まれない環境でプレーしている選手たちにもスポットライトがあたる。そう、独立リーグ所属の元NPB選手たちだ。
今年は9人。毎年10人前後は独立リーグ所属の選手が参加する。
肩書きとしてはプロ。しかし、スポンサー契約を主とした独立採算制であることから給料は安い。試合会場や練習場など専用施設を持たず、ボールやバットなどの用具も潤沢ではない。全てが揃うNPBの12球団とは比較できないほど、厳しい現実があるのだ。
同じプロ組織に垣間見える光と影。トライアウトに参加する選手は、独立リーグとNPB、両方のチームでのプレー経験があるからこそ、野球選手としての原点に立ち返ることができるのだろう。
今年は、ふたりのベテラン選手が自らのプレーでそれを教えてくれた。
「この日のことだけを考えて今までやってきました」
木田優夫は、そうはっきりと言った。