オフサイド・トリップBACK NUMBER
イングランド、W杯招致惨敗の理由。
英メディアとFIFA、その暗闘の全貌。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAP/AFLO
posted2010/12/04 08:00
自国で最も権威あるプレゼンテーターともいえる、ベッカムとウィリアム王子のふたりと、キャメロン首相まで出席したにもかかわらず敗北したイングランド
イングランドサッカー協会会長がスキャンダルの餌食に。
極論すれば、これはかつての自民党の総裁選などとまったく変わらない。
もしW杯を招致したいのならば、理事たちの歓心を買うべく最大限の努力を払うのは当然。逆に理事会メンバーの不興を買ったり、へそを曲げさせたりするようなことは万が一にもあってはならない。
ところがイングランドのメディアは、理事会メンバーの感情を逆なでするどころか、自らに反対票を投じさせようと仕向けているのではないかとさえ思えるような報道を再三行ってきた。
まず5月16日には、メール・オン・サンデー紙がスクープ記事を掲載する。
内容は、FA(イングランドサッカー協会)の会長でW杯招致委員会の長も兼任していたトリーズマン卿が、「スペインは、ロシアがW杯南ア大会で審判に賄賂を贈るのに協力すれば、2018年大会への立候補を取り下げるかもしれない」と発言したというものだった。
トリーズマン卿は職を辞することを余儀なくされ、残された招致委員会のメンバーは、釈明と謝罪に大わらわとなる。W杯招致のための親善大使を務めていたゲーリー・リネカーはスクープ掲載に激怒し、同紙へのコラム寄稿を即刻中止した。
(メール・オン・サンデー紙のスクープでは、当時66歳だったトリーズマン卿が29歳年下の女性と不倫関係にあることも発覚した。ちなみにトリーズマン卿は、FAの前会長が不倫スキャンダルの責任をとって辞任したのを受けて後任に就いた人物である。問題発言は件の女性が、トリーズマン卿と食事をした際に音声を密かに録音、7万5千ポンドとも10万ポンドともされる値段で新聞社に譲り渡したことで表面化した)
英国メディアによるFIFA理事会メンバーへの総攻撃開始!!
5カ月後の10月17日には、サンデー・タイムズ紙がこれに続く。
アメリカ招致団のロビイストを装った同紙の記者が、FIFAのレイナルド・テマリィ副会長(オセアニアサッカー連盟会長)と、アモス・アダム理事(西アフリカサッカー連盟会長)に接触。おとり取材を行い、アメリカへ投票する見返りとして前者が150万ポンド、後者が50万ポンドの「公的資金援助」を求める様子を記録した映像などを公開した。
事態を重くみたFIFAは、両名に対し理事としての職務を暫定的に停止する処分を下している。この結果、W杯の投票は24人ではなく22人によって行われることになった。