スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
優雅にスイートルームで球児を応援!?
夏の甲子園で欲しいサービスとは。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/08/19 10:30
プロ野球で1試合観戦しようとすれば、最低でも外野自由席などで1000円ほどはかかる。それが、バックネット裏で2000円という高校野球の値段は、破格というか何というか……。
やっぱり、甲子園はいい。
夏の甲子園に足を運ぶのは、世界でも稀に見る「ローコスト、ハイパフォーマンス」の娯楽だと、改めて実感した。
なんといっても、当日並んで買うバックネット裏の中央特別自由席がたった2000円である。2000円で4試合も見られるのだ。内野特別自由席でさえ1500円、子どもは600円だ。
それに外野は無料である(関東の人で、高校野球の外野席をタダだと知っている人は、少ないのではないか?)。この無料開放区は、自転車でやってくる近所の子どもたちや、スタンドを即席ビアガーデンに変えてしまう大人でにぎわっている。
ただし、第1試合から第4試合まで観戦するとなると、途中で息抜きをしないと朦朧としてくることもあるし、日焼けで顔、腕がひどいことになってしまうが……。
超豪華なプレミアムシートがビッグクラブの収益の柱に。
甲子園の商売っ気の無さは、ある意味、感動的ですらある。
仕事柄、世界中のスタジアム、球団経営を調べることも多いから、甲子園の素朴さに驚いてしまうのだ。
7月には、アメリカの雑誌『フォーブス』が世界のスポーツチーム、クラブの収支ランキングを発表したが、1位はレアル・マドリー、2位にマンチェスター・ユナイテッド、3位にバルセロナとサッカーのクラブが並び、4位にメジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースがランクインした。
国や競技は違えども、昨今のトレンドとして、経営が良好な球団は「プレミア・シーティング」と呼ばれる豪華なスイートなどを設け、収益力をアップさせている。
ヤンキースの場合だと総収益6億3千5百万ドルのうち、1億3千6百万ドルがプレミア・シーティングによるもの。
NBAのニューヨーク・ニックスは、総収益2億4千6百万ドルのうち、6千万ドルがプレミア・シーティングだ。
どの球団を見ても、収益の15%から25%が豪華シートによる売り上げだ。
だからこそ、どの球団も新しい球場を作ったり、アリーナ、スタジアムの改装を進めてプレミア・シートを充実させるのである。
スタジアムに投資しなければ、収益は上がらない──。そういう構造になっている。世界でスタジアムの快適性が飛躍的に上がっているのは、経済的な理由が大きい。
たぶん、外国人のビジネスマンが見たら、甲子園には「金鉱」が眠っていると感じるだろう。