野ボール横丁BACK NUMBER
規律が先か? 自由が先か?
夏の甲子園で躍進する高校の条件。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKyodo News
posted2013/08/17 08:00
今大会の開幕試合となった大垣日大戦で、甲子園初勝利を飾った有田工。試合終了直後、一気にベンチを飛び出て駆け出したナインたち。
規律の破綻による敗戦――。そんな印象が残った。
開幕戦、大垣日大(岐阜)と有田工(佐賀)の試合で、大垣日大のベテラン監督、阪口慶三は2つの「奇襲スクイズ」を見せた。
1つ目は4回裏だった。1死三塁で、3ボールから3番・内藤大貴にスクイズを指示。初出場の有田工の監督、植松幸嗣が「まったく考えていなかった」と驚いた意表をつく攻撃で1点を先制した。
主導権を握った大垣日大は、一時は3-0と有田工をリードする。しかし7回に2点、8回に3点を失い、3-5と逆転を許した。
この試合のクライマックスは8回裏だった。大垣日大は4-5と1点差に詰め寄り、なおも1死三塁。打席には2安打と当たっていた4番・滝野要を迎える。そして、1-1からの3球目だった。阪口はセーフティースクイズを仕掛けたが、滝野が膝元に食い込むスライダーをバットに当てられず、飛び出した三塁走者の大久保陸志がタッチアウト。同点のチャンスを逸した。
監督はどこまで試合をコントロールできるのか。
セーフティースクイズの約束事に従えば、本来、ランナーは打球が転がったことを確認してからスタートを切らなければならない。つまり、打者のミスであると同時に、走者のミスでもあった。
ただし、終盤の同点機という重圧のかかる場面で、打撃好調な4番打者へのスクイズというのは、野球の常道に反していると言えばそうだ。もっと言えば、監督とはどこまで試合をコントロールできるものなのかという疑義を呈した作戦でもあった。
試合後、阪口は「ランナーも打者も2年生。若さが出た」と語った。つまり、阪口の野球観ではそこまで動けるようにならなければならないということだ。
一方、逆転勝ちした有田工は、そんな大垣日大とは対極にあるチームだった。部長の沢山大亮が話す。
「賛否両論あるとは思いますけど、うちの監督は選手の自主性を尊重するタイプの監督。だから練習中もほとんど何も言わない」
そんな方針で有田工は佐賀県を勝ち抜き、さらには甲子園の初戦で強豪の大垣日大を5-4で下した。その理由を植松は「今年の3年生が大人びていたから」と話す。
「練習内容とか、いろんなことを選手の方から提案してくれたんです。こちらは何も言わないのに」