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168cmの体、130kmの直球で完封劇。
“小さな巨人”樟南・山下の投球術。 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byKyodo News

posted2013/08/13 08:02

168cmの体、130kmの直球で完封劇。“小さな巨人”樟南・山下の投球術。<Number Web> photograph by Kyodo News

9回1死満塁のピンチでも堂々と内角ストレートを投げ続け、見事三ゴロ併殺に打ちとった樟南の先発・山下敦大。

「むしろカーブを狙いにいった方が良かった」

 佐世保実の5番・山田周が、山下の印象をこう話している。

「データで(山下は)変化球を低めに集めてくると聞いていて、甘く来たストレートを狙っていこうというのが試合前の狙いでした。第2打席に甘く来たストレートを打ちにいったのですが、捉えきれなかった。カーブが気になったのもあったと思います。僕はカーブを見てしまっていたので、むしろカーブを狙いにいった方が良かったのかもしれないです」

 山田は3回の第2打席、1死一、二塁からストレートを打ちにいって、サードゴロの併殺打。9回の最終打席にスクリューを中前安打にしたが、試合トータルでは山下を打ち崩せずに悔しがった。

 カーブの2つ目の効果は、軌道の残像が他の変化球よりも記憶に残りやすいということだ。

カーブを見てしまうと、打者は他の球種に対応しにくくなる。

 山田も少し触れているように、カーブを“見てしまった”ことで他の球への対応が鈍くなる。

 この点については、過去に野球善哉のコラムでも取り上げたことがあるが、カーブはプロの打者にとっても投手を攻略するのに非常に厄介な球種なのだという。昨季のパ・リーグ首位打者の角中勝也(ロッテ)は、その残像を消すために、カーブのあとは打席を外して時間を空けるほどなのだ。

 5回表、2死三塁の場面で佐世保実の4番・田崎稔季が力強く振り抜いた打球が左翼の大飛球に終わったり、9回表の1死満塁から9番・後門蛍太がそれほど速くないストレートにもかかわらず差し込まれていたのは、残像としてのカーブが生きたからだ。

 そして、もうひとつのカーブの効果は、投球フォームの修正に効果的であるということ。

 広島の前田健太は、投球フォームを作り上げる一つの方法として「カーブを投げる」というし、日本ハムの大谷翔平は「カーブは正しいフォームじゃないと投げられない球種。フォームを修正できるので、高校時代は良く投げていた」と語る。

【次ページ】 投球が安定しない山下が、急にカーブを多投し始めた。

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