野球善哉BACK NUMBER
いま最も勝てる投手が重用する、
現代に甦った“古い”球種カーブ。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNanae Suzuki
posted2013/07/17 12:25
投球フォームから“ライアン”と呼ばれるヤクルトの小川泰弘。新人として1999年の上原以来となる10勝一番乗りを果たし、後半戦で勝ち星をどこまで伸ばせるか。
その球が再びクローズアップされるようになったのは2008年の日本シリーズだった。
日本一を決める舞台で西武の岸孝之が投げ込んだその球が、セ・リーグの覇者・巨人をきりきり舞いさせたからだ。
岸は日本シリーズのMVPを獲得し、彼の投げる球は「魔性のカーブ」と称賛された。
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2年後の2010年にはカーブの使い手・前田健太(広島)が15勝を挙げ、セ・リーグの投手タイトルを総なめにして、沢村賞を受賞した。
岸と前田に共通したのは、ストレートとキレのあるスライダーという武器を持ちながら、カーブも秀逸だったということだ。速いボールの合間に挟むカーブが、打者の目線を狂わせていたのだ。
彼らが登場してからというもの、カーブの使い手が再びプロ野球界で活躍するようになってきた。
ロッテの唐川侑己は「高めのストレートを生かすために必要」と浮きあがって落ちるカーブを持ち味とし、昨季の沢村賞投手・攝津正(ソフトバンク)は、カウントを取るカーブと勝負球に投げるカーブとの使い分けが卓越している。新人ながらセ・リーグで今季10勝を挙げている小川泰弘(ヤクルト)は多彩な球種の一つにカーブを使っている。パ・リーグでブレーク中の西野勇士(ロッテ)、開幕13連勝と絶好調の田中将大(楽天)も、例年以上にカーブを上手く使いこなしている。
果たして、岸と前田で話題になったカーブの存在は、今、球界において、どのように捉えられているのだろうか?
カーブのポイントは「緩急差」だとは言うが……。
「緩急差だよね。ストレートが130キロに満たない投手でも、カーブが80~90キロだったら、140キロを投げる投手の110キロのカーブと緩急差では一緒なわけだから、同じくらいの効果がある。130キロに満たないストレートを140キロに見せられる。カーブは浮きあがる球だから、捉えたと思っても差し込まれる要因になるしね」
そう語るのはソフトバンクの打撃コーチ・藤井康雄である。
「緩急差」というのがこの球のポイントのようだ。加えて、浮かんで沈んでくるこの変化球の軌道が、打者の感覚にわずかなズレを生むようだ。