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松井裕樹の全力投球は諸刃の剣!?
田中将大に見る“抜く”投球の極意。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/07/31 13:00
松井裕樹は天を見上げ、首に青筋を立てて全力投球する。抜くことを覚えるのは、まだまだこれからでいい。
田中将大の高校時代も全部全力投球だった。
駒大苫小牧時代の田中将大(楽天)もそうだった。
当時の田中は緩むということがなかった。常に100パーセント、いや、それ以上に思えた。それが彼の魅力だったが、同時に課題でもあった。
2年夏、実質エースとしてチームを全国優勝に導いた田中だったが、こう反省してもいた。
「全部全力投球していたんで、中盤から終盤にかけてバテることがあった。だから抜くところは抜けるようにしたい」
田中の投球スタイルに変化が見え始めたのは3年生になってからだった。フォームを崩し、ボールにうまく力を伝えることができなくなったことをきっかけに、投球術で抑えるようになった。3年夏、絶不調ながらも甲子園の決勝まで導いたのは田中の別の凄さを物語っていた。
打たせてアウトにする意識も少しはあったようだが……。
その2つの顔を、今の田中は見事に使い分けている。抜くところは抜き、ここぞというところは全力でいく。だが本当の意味で抜くことを覚えたのは、もともと田中が誰よりも全力投球できるタイプのピッチャーだったからに他ならない。
松井もそうだ。あれだけ全力投球できるのは松井の最大の魅力であるし、才能でもある。
ただし、これからはそれだけでは勝てない。おそらく、この夏、松井は少しだがそれを試していたのだと思う。
「守備を動かそうと思った」と落差のあるスライダーを封印し、あえて曲がりの小さいスライダーや真っ直ぐで勝負している場面が何度かあった。
そのマイナーチェンジが中途半端になってしまったことも結果が出なかった理由のような気がする。
いずれにせよ、高校時代に抜く極意はつかめなかったとはいえ、松井にはまだ有り余るほどの時間がある。まずは高校時代、全力投球のみでここまで実績を残せたということ。そこに勝ち負け以上の価値を感じる。