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松井裕樹の全力投球は諸刃の剣!?
田中将大に見る“抜く”投球の極意。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/07/31 13:00
松井裕樹は天を見上げ、首に青筋を立てて全力投球する。抜くことを覚えるのは、まだまだこれからでいい。
桐光学園のエース、松井裕樹の全力投球は諸刃の剣だった。
昨夏、甲子園の2回戦で松井と対戦し、19三振を奪われ5-7で敗れた常総学院の監督、佐々木力はこう感嘆していたものだ。
「これまで甲子園で何人ものいいピッチャーを見てきたけど、あんだけ全力で放るピッチャーはいませんよ。全球、腕を振ってくる」
2003年夏、常総学院は決勝戦でダルビッシュ有を擁する東北と対戦。そのときダルビッシュの投球内容を分析したのも、当時コーチを務めていた佐々木だった。
「ダルビッシュは1打席の中で1球ぐらいしか力の入れた真っ直ぐは投げない。それ以外は横から投げたり、抜いた変化球。だから、それをねらえ、って」
結果、ダルビッシュに計12安打を浴びせ、4-2で快勝した。
佐々木が続ける。
「でも松井君の場合は、変化球を投げるときも全力ですから。あれだとバントもまともにできない」
「彼はすべて全力投球。だからこの夏は大変難しい大会になった」
7月25日、松井は神奈川大会の準々決勝で横浜に2-3で敗れた。実はその試合でも横浜打線は三度、送りバントを失敗している。
しかし歴戦の名監督、横浜の渡辺元智は松井の欠点についてこう語っていた。
「彼は抜いて投げられるピッチャーじゃないから。すべて全力投球。だからこの夏は、大変難しい大会になったんだと思う。今日だって最初から力投型でしょう。どんどん攻めてくる。8分ぐらいの力で放ったら彼本来の投球ができなくなっちゃいますからね。今日みたいに序盤から飛ばしていると、中盤から終盤にかけてスピードが落ちてくるし、ボールも高めに浮いてくる。それは選手に言っていましたよ」
その言葉通り、7回裏、横浜は2番・浅間大基が初球の高めに浮いた真っ直ぐをジャストミート。逆転2ランを放ち、試合を決めた。
佐々木は全力投球が松井の長所だといい、渡辺はそれこそが欠点なのだと語った。
おそらく、それはどちらも本当なのだろう。