甲子園の風BACK NUMBER
桐光・松井を疑心暗鬼に陥らせた、
1年越しの因縁と高度な心理戦とは。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2013/07/26 12:45
横浜高校に2本の本塁打で逆転を許し、松井の最後の夏は甲子園の土を踏むことなく終わりを迎えた。試合後の会見では失投への後悔と、チームへの感謝を涙ながらに語った。
横浜・高濱vs.桐光・松井。昨年の対決はどうだったか?
松井からすれば、ストレートの球速が自己最速記録の147キロを2キロも上回る149キロまで記録し、ストレートで押していけるという感触もあったのだろう。
たとえば、横浜の4番高濱祐仁(遊撃手・右投右打・182/82)に対する第1打席の配球はスライダー1球に対し、あとの4球はストレートだった(結果は四球)。このストレート主体の攻めがその後の2本のホームランの伏線になっていく。
高濱と松井は昨年夏の準々決勝でも因縁めいた勝負をしている。
1年生にして4番に座った高濱は第3打席でセカンドゴロに打ち取られているが、これは松井の腹部をライナーで直撃する超高校級の打球だった(この打球を受けた松井が治療のため一度ベンチに引っ込まざるを得ないほどの威力であった)。9回表の第4打席、1死三塁の打席では2-2のボールカウントからストレートを左中間に三塁打を放ち、松井を1点差まで追いつめている。
この1年前の戦いも、その後の松井のストレート勝負の伏線だったのかもしれない。
横浜打線は、松井をストレート勝負へジワジワと追い込んでいった。
桐光学園の1対0で迎えた4回裏、先頭の高濱は初球の高めを振り抜いてバックスクリーンへ同点ホームランを放つ。
バックネット裏から見たその1球はストレートのように見えた。しかし、TVで見るとスライダーが高めに抜けたようにも、チェンジアップが高めに抜けたようにも見える。つまり変化の小さい何の変哲もない1球で、ストレート待ちのタイミングでも長打が打てる球である。センターフェンスを直撃すると思ったライナーは低い弾道のまま伸びていき、バックスクリーンを直撃して跳ね返った。
7回には2番浅間大基(中堅手・右投左打・182/72)に初球ストレートを2ランされ、そのつど勝負に行く球に迷いを見せていた松井。ストレートでもスライダーでも低めとコーナーにきちんとコントロールできた球は絶対に打たれない――そういうシンプルな発想で横浜打線に立ち向かえなかったことが敗因の1つと言ってもいい。
逆に横浜は、ストレート勝負に行かざるを得ないような待球で松井を追い込み、攻略した。
結局試合は3-2で横浜が勝利し、松井の奪三振数は10だった。