甲子園の風BACK NUMBER
桐光・松井を疑心暗鬼に陥らせた、
1年越しの因縁と高度な心理戦とは。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2013/07/26 12:45
横浜高校に2本の本塁打で逆転を許し、松井の最後の夏は甲子園の土を踏むことなく終わりを迎えた。試合後の会見では失投への後悔と、チームへの感謝を涙ながらに語った。
この日の松井の投球内容にあった、大きな謎とは?
謎が1つある。松井が、今年になって武器としていたチェンジアップをあまり投げなかったことである。
ネット裏で見ていた限り、はっきりとしたチェンジアップは6回の長谷川の4球目に投げた1球しか記憶にない。ネット裏前列で見ていた友人はもう1球あったと言うが、どちらにしても1、2球しか投げなかった。スライダーとは逆方向の変化球で、スライダーに慣れた横浜打線には脅威だったはずだが、松井は封印した。
今年になって投げるようになった球だからスライダーほど精度がない、だから横浜打線には使えない、と松井が思ったのかもしれない。そういう疑心暗鬼に陥れたのだとしたら、それこそ横浜高校が過去15年間、他校を圧倒し続けた目に見えない圧力だったのだろう。
今夏一番の好ゲームに私は酔いしれた。