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コースはあるけど……施設は未完成。
主催者の謝罪で始まったF1韓国GP。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2010/10/22 11:55
不自由を楽しむタフな精神を持つF1サーカス団員たち。
しかし、そういった不自由さを楽しむ人々が、この世界には少なからず存在していることも事実である。
初めてこのような歓楽街の宿泊施設に宿泊したという友人のイギリス人ジャーナリストは「好んで宿泊しようとは思わないが、めったに味わえない経験ができて良かった。原稿を書くネタにもなったしね(笑)」と、サーキット内外で遭遇する非日常的な出来事を受け入れていたくらいだ。
しかし、この笑ってしまうほどにタフなポジティブシンキングの姿勢にこそ、F1サーカスを上手に渡り歩く秘訣が隠されているのではないか、とも思う。
ドライバーは正確なシミュレーション無しで走ることに!!
現在のF1では、トップチームのほとんどが最新のドライビングシミュレーター施設をそれぞれ拠点としているファクトリー内に建設し、グランプリ前にドライバーたちにトレーニングさせている。だが今回は、それを効果的に活用できないままグランプリに臨まなくてはならないという事情がある。
最新のドライビングシミュレーターは、当然ながら市販されているテレビゲームよりも数倍精巧にできている。専門の業者がサーキットで撮影したデータをシミュレーターのソフトに落とし込み、ドライバーのアクセルやステアリングの蛇角による変化を、1秒間に100回以上更新して映像にフィードバックさせているという代物なのだ。
ところが韓国インターナショナルサーキットのコースはアスファルトの最終舗装が遅れたために、正確なデータをプログラムできないままグランプリ本番を迎えることになった。
もちろん、設計図などが事前に主催者側からFIAを通して各チームへ渡っており、チーム側はその図面データからサーキット図をCAD上で再現。それをコンピュータのソフトに入力して、シミュレーションを行ってはいる。しかし、事前にサーキット側から提供されたコース設計図には、縁石の高さなど細かな部分のデータがなかったため、縁石をカットするような走行ラインをとった場合のシミュレーションはできていないのである。
さらに図面データには路面のミュー(摩擦係数)の記載が無かったため、こればかりは実走してみないとわからない、ということになっているというのだ。