セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
サッカー界の“サグラダ・ファミリア”、
問題児カッサーノがパルマで再出発。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2013/07/16 10:30
「ここが最後の場所になることを願っている」と意気込むカッサーノ。
クラブを変えるたびに更生を誓うのだが……。
門出は順調でも、終わりはいつも支離滅裂。
問題児カッサーノは、クラブを変えるたびに更生を誓い、半年もするとそれを綺麗さっぱり忘れてきた。
'06年1月にASローマからレアル・マドリーに入団、銀河系軍団の一員になったとき、「人間的に成長するときだ。謙虚になりたい」と語った。その後、練習をさぼり、女漁りと放蕩三昧の日々を送った。
悪童は古豪サンプドリアで再起したが、'10年秋に恩人であるR・ガッローネ会長(当時/故人)を些細なことから「クソじじい」呼ばわりして謹慎処分を受け、そのまま喧嘩別れしている。
なし崩し的に入団した'11年1月当時のミランでは、無頼派イブラヒモビッチや歴戦の猛者ガットゥーゾらが睨みを利かせており「ここでうまくいかなきゃ、俺は精神病院に行くべきだな。馬鹿な真似ももういい加減卒業だ」と殊勝になった。
だが、心臓疾患を克服してEURO2012で準優勝した昨年の夏、自身の待遇と補強方針をめぐってフロントを公然と批判。「ミランには煙ばかりで肝心の肉がない(=口約束だけ)。インテルこそ極上のクラブだ」と言い残し、後ろ足で砂をかけるように出て行った。難病のケアとイタリア代表復帰に尽力したガッリアーニCEOと医療スタッフが激怒したのは言うまでもない。
「ブラジルW杯」というカッサーノの悲願を見抜く指揮官。
パルマの指揮官ドナドーニは、この問題児をどう扱うのか。2006年から2年間指揮を執ったイタリア代表監督時代、ドナドーニはカッサーノを重用している。今回の交渉でも、自ら電話をかけてパルマ加入を説いた。
「イタリア代表でもカッサーノとは心底打ち解けることができた。彼には自分がファミリーの一員だと感じさせることが肝要で、責任を負わせた方がうまくいく。ライバルは多いが、彼が現在の代表FWたちに劣っているとは思わない。彼はキャリアの中で自分がどれだけのチャンスを無駄にしてきたかわかっている。すべては彼次第だ」
ドナドーニは、カッサーノの悲願がブラジルW杯出場であることを見抜いている。攻撃のコンビを組むことになるFWアマウリも「カッサーノのアシストがあれば、二桁ゴールを挙げるのは容易い。俺も彼とイタリア代表に復帰したい」と相乗効果を期待している。
ただし、カッサーノにどれほど天賦の才能があろうとも、心身ともに完全に脱皮を遂げない限り、コンフェデレーションズ杯での激闘を経て、なお進化する現在のアズーリへ返り咲くのは至難の業だ。