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イチローは何のために打ち続ける?
偉業達成の姿に重なる、あの“剣豪”。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images

posted2010/09/24 12:30

イチローは何のために打ち続ける?偉業達成の姿に重なる、あの“剣豪”。<Number Web> photograph by Getty Images

キーラーの数字を抜いたことで完遂した記録なのに……。

 そのことは8月14日のインディアンス戦後の発言からも窺い知れる。

「去年までは(連続200安打を)意識していると表明していたが、今年はそうじゃないのに。結局そこにフォーカスされるのは面白いよね。結局意識しているのはそっち(メディア)じゃん、って思うんだけどね(笑)。皮肉なもんだよね」

 昨年ウィリー・キーラーの8年連続200安打を越えた時点で、シーズン200安打という数字はイチローの中ではすでに終止符を打った記録なのだ。だからこそ、引き続き個人記録ばかり注目される現状に、9月1日のエンジェルス戦後は「それは聞かれたくない」と素っ気なく答えるしかなかったのだ。

 それでもメディアを含めた周囲の人々は個人記録に注目し、周りからどう思われようともイチローはヒットを積み重ねていった。

 それを可能にしているモチベーションは一体何なのか?

イチローの難しさはその「日本人らしい寡黙さ」にある。

 9月5日のインディアンス戦後に発したイチローの言葉に接し、ついにその疑問が氷解していくのを感じた。

「(自分が)大事にしているかというよりも、大事にしていない人が多いということではないですか」

 この試合でフェリックス・ヘルナンデスが8回無失点の好投を演じ、チーム状況に関係なく奮起するヘルナンデスやイチローの戦う姿勢について問われて、即答したセリフだ。チームの勝利という目標を失っても、グラウンド上に立てば常に100%のパフォーマンスを目指すプロフェッショナリズム。これこそがプロアスリートとしてのイチローの大前提、至上命題だったわけだ。

 周りの状況に関係なくストイックにプレーに没頭する姿勢は、時として“個人プレーヤー”に見えることもあるだろう。それでもイチローは寡黙に“内なる闘い”を続けてきた。そこにはただただ素晴らしいプレーを披露してファンを喜ばせたいという思いもあったことだろう。しかしもうひとつ、日本人らしい寡黙にして深い意図もあったのではないか……自分の背中を見てその戦う姿勢をチームメイトにも感じとって欲しいという、他の選手へのイチローのリーダーシップ、メッセージでもあったのではないか。

【次ページ】 「シーズン100敗のチームで200安打」という奇妙な記録。

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