ボールピープルBACK NUMBER
夜中の救急病院、ブラジルのトラウマ、
そしてフットボールしかない小さな国。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/06/29 08:01
フッキことジオバンニ・ヴィエイラ・デ・ソーザ選手は、子供時代に読みふけったアメリカン・コミックの「超人ハルク」から母親につけられたあだ名を選手名として登録している。
ウルグアイのサッカー界を改革したタバレス代表監督。
モンテビデオのTV局「カナル12」で、フットボールの中継アナウンサーとして働くアレハンドロ・フィゲレードは、ミネイロンスタジアムのプレスセンターで、ここ数年のウルグアイサッカーの動きをこんなふうに教えてくれた。
「2006年のW杯予選でオーストラリアに敗れたことは、我々にとってものすごく大きなショックでした。その後、協会は現在の代表監督タバレス氏と契約を結びます。以後7年間、ウルグアイサッカー史上、これほどの長い期間1人の人物が監督を務めたことはありません」
タバレス監督はこの7年間でウルグアイサッカー協会を再構築し、これまでになかったような長期的視野に立ったプロジェクトを進めた。結果、今年度のウルグアイは、女子サッカーも含め、FIFAの主催する全ての大会に各年代の代表チームを送り込んでいる。
前半戦、試合を有利に進めていたのはウルグアイだった。
結果から言えば、この日のブラジルはマラカナッソの三歩手前ぐらいまで追い込まれた感じだっただろうか。
午後4時。主審の笛が鳴り、ミネイロンでの準決勝第1試合は始まった。
試合前の国歌斉唱で、ブラジルGKのジュリオ・セザルがチアゴ・シウバとマルセロを両腕に抱え、ものすごい迫力で国歌を歌っていたのが印象的だった。
立ち上がり、ゲームをプラン通りに進めたのはウルグアイだ。
彼らは序盤から前線、中盤、サイド、それぞれの局面で効果的なプレスをかけ、ブラジルに自分たちのサッカーをさせないという作戦をとった。
ブラジルはボールを回してチャンスをうかがうが、選手同士のプレーにスペインのような連動性もないし、かつてのセレソンのように個々の圧倒的なうまさもない。日本人の僕が言うのも失礼だが、本当にこのセレソンは地味だ。
日本戦に比べれば両サイドのダニエウ・アウベスとマルセロのコンディションは上がっているようで、この経験豊かな両サイドバックがなんとかブラジルに若干の優位性を与えてはいた。だが、それとてもウルグアイを慌てさせるには十分ではなかった。
逆に13分には、CKからの競り合いでD・ルイスがルガーノのユニフォームをつかんで倒し、PKの判定が下る。ゴール裏のブラジル人は怒りの声を上げたが、これは明らかにPKだった。しかしこの危機はGKのジュリオ・セザルがファインセーブではじき出し、ウルグアイの先制点を許さなかった。
その後もブラジルはボールをキープするものの、ウルグアイが効果的にカウンターを仕掛け、6万人のミネイロスの胆を激しく冷やす。前半終了間際に、ネイマールのシュートのこぼれ球をフレッジが押し込んで先制はしたものの、後半立ち上がり3分にはカバーニの見事なシュートでウルグアイが同点に追いつく。
そこからゲームは再び膠着する。