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好機に仕掛けないのも“積極采配”!?
巨人・原監督に見る監督のロジック。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2010/09/19 08:00
9月に入り、足踏みする巨人と阪神を尻目に中日が11勝1敗1分け(9月15日現在)と好調を維持。リーグ制覇に向け、上位チームの監督はどんな采配を振るうのか
プロ野球の報道では、よく「積極采配」という言葉を目にすることがある。
この言葉は、監督がセオリーよりも早めに勝負手に打って出たときに使われる用語で、例えば早い回で先発投手に代打を送ったり、普通は中盤過ぎの勝負どころで使う切り札的な選手を4、5回で起用したときに使われる。具体的には阪神・真弓明信監督が、初めて守護神の藤川球児投手を8回から投入して逃げ切った9月5日の広島戦のケースがそうだった。翌6日のスポーツ紙には、「積極采配」の大きな文字が躍っていた。
ただ、「積極采配」とは、ある意味、セオリー無視の特別な采配でもある。
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そこで、いつも「積極采配」ばかりを仕掛けて、それが失敗すると「疑問の采配」へと評価は転じてしまう。これまたプロ野球の報道では、よくあるパターンというわけだ。
迷いながらも山口を6回表に投入した原監督の決断力。
「自問自答しながら、この積極策を選択した」
巨人・原辰徳監督が、試合後に珍しく自らの采配をこう語ったことがあった。
中日、阪神と三つ巴の優勝争いが苛烈極める9月12日、東京ドームで行なわれた広島戦だった。
この試合で原監督は3点をリードした6回に先発のディッキー・ゴンザレス投手が広島・天谷宗一郎外野手に左翼線二塁打を浴びて2点差とされると、すかさず中継ぎエースの久保裕也投手にスイッチ。その久保が四球、暴投で2死二、三塁のピンチを招き、代打の前田智徳外野手が指名されると、今度はリリーフの切り札の一人の左腕・山口鉄也投手を惜しげもなくつぎ込んだ。
いわゆる「積極采配」の典型だ。
追加点のチャンスにもあえて山口を打席に送る「積極策」。
ただ、監督の言いたかった本当の「積極采配」はこの場面ではなかったのだ。
場面はその裏の、巨人の攻撃にあった。
2死一、二塁で打順が山口に回ると、原監督はそのまま投手を打席に立たせた。そしてその山口が左前打を放って満塁とつなぎ、1番・坂本勇人内野手の二塁打で2点を追加した。
結果的に追加点を奪うことになったが、これはいわゆる「積極采配」ではない。
定義からいえば、追加点を取りにいくために動くのが積極策で、この場面では山口に代打を送って勝負をかけるのが「積極采配」となるはずだ。
しかし、原監督は逆に、代打を送らず投手を打席に立たせたこの采配こそ、「積極策である」と強調したわけなのだ。