ボールピープルBACK NUMBER
“惜敗”の地、レシーフェのホテルで、
イタリア男と日本サッカーを語った朝。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/06/22 08:03
ボールひとつあれば、そこがフィールドになる。レシーフェのビーチで見かけたボールピープルたち。
日本対イタリア戦は「今大会これまでのベストゲーム」。
翌朝、午前4時まで写真を送る作業をやって少し眠ると、僕は近くのドラッグストアで新聞を買い、朝食をとりにホテルのダイニングルームに入っていった。
地元新聞の見出しは、『入場料に値した』だった。サブタイトルには、大会が始まってからのベストゲーム、というコピーも添えられていた。
新聞を読みながら時間を過ごしていると、昨日のカルロが1人でダイニングに入ってきて、僕の前に座り、イタリアが負けてもおかしくない試合だったな、と言った。
じゃあなんで負けなかったの? と僕が訊き、カルロはこう答えた。
「2-0になったときは、オレも心配した。でも、日本のセントラルミッドフィルダーの2人の足が、前半が終わる前に動かなくなり始めた。これならまだ大丈夫かもしれない、と思ったよ。日本の生命線は7番(遠藤)と17番(長谷部)だよ。あそこが動けなくなったら、日本代表のサッカーはものすごくバランスが悪くなる。で、そのあと、デロッシのゴールで1-2になって前半が終わった。あそこで、もう負けはないな、と思ったね。あの失点が日本にとっては大きな1点だったと思う」
クールな意見だった。
「いい内容で負けるより、悪い内容でも勝てた方がよかった」
前回のコラムで僕は、ブラジル戦は予想された結果だったかもしれないが、期待していた内容ではなかった、と書いた。イタリア戦はというと、内容は期待していたそれを遥かに上回るものだったが、結果は予想していたものとは違っていた。
面白いゲームだった、それは間違いない。
日本の方が見ていて楽しいサッカーを演じた、これもまた間違いない。
しかし、果たしてほんとうに『勝つに値した』のは日本だったのだろうか。
僕自身も試合後すぐに口にしたように、ほんとうに勝てた試合だったのだろうか。でも、じゃあなぜ負けたのだろう。ディフェンスのミス? 集中力不足? それもまた日本の実力の一部ではないのだろうか。
日本対イタリア戦の翌日、グループBの第2試合、ウルグアイ対ナイジェリア戦後。この大事な試合を落としたナイジェリアのGKは、いい内容でゲームを進めていたのに残念ですね、というインタビュアーの振りに、微笑みながらこう答えていた。
「いい内容で負けるよりは、悪い内容でも勝てた方がよかったですよ」
さらにつけ加えるなら、本当にいい内容なのであれば、きっと結果もついてくるんじゃないか。
あのアレナペルナンブコの夜から1日後、僕は今そんなふうに考えている。
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