ボールピープルBACK NUMBER
“惜敗”の地、レシーフェのホテルで、
イタリア男と日本サッカーを語った朝。
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph byAtsushi Kondo
posted2013/06/22 08:03
ボールひとつあれば、そこがフィールドになる。レシーフェのビーチで見かけたボールピープルたち。
今回は氏の最新刊となる『ボールピープル』の発売を記念して、
コンフェデレーションズ杯の紀行エッセイを発表することとなりました。
連載第3回は、惜敗のイタリア戦にまつわるお話に――。
ブラジル戦で完敗した日本代表は、傷心のまま次の土地レシーフェへ。
近藤氏は、海辺の美しい街でボールピープル達に出会います。
ブラジリアでの開幕戦を撮影した後、翌日の午後の飛行機で日本対イタリアの舞台レシーフェへ飛んだ。
宿泊先のホテルは市内の南、ピエダージという地区にある。ホテルのすぐ裏は大西洋で、浜辺を散歩しているとボールを蹴っている少年たち、青年たち、あるいは親子の姿を必ず見かける。それほど広い砂浜ではないから、子供たちは潮の満ち引きに合わせて集合し、干潮の時刻にゲームを始める(学校、ちゃんと行ってる?)。もちろんみんな上手い。
2本の細い棒を砂浜に突き刺して作ったゴールをめがけ、ドリブルを仕掛けたりシュートを放ったりしている子供たちの姿を眺めていると、ブラジルにいるんだなあ、と実感する。
「日本対イタリアの試合、どうなると思う?」「拮抗した試合になるよ」
レシーフェに着いた翌朝、ホテルのダイニングルームでちょっと遅めの朝食バイキングをとっていた。
食後のコーヒーをとりに席を立つと、隣のテーブルに座っていたカップルの女性と目が合った。
黒髪の魅力的な女性である。
「Bom dia」と挨拶すると、彼女は「ジャポン?」と訊いてきた。「そうです」と答えると、彼女は自分の左の胸を指さし、「メキシコ!」と楽しそうに笑った。彼女はメキシコ代表チームのレプリカユニフォームを着ていた。ということは、僕と彼女はグループAのライバル同士ということになる。でも、その前にメキシコはフォルタレザでブラジルと対戦することになっている。
「レシーフェじゃなくてフォルタレザにいなきゃいけないんじゃないの?」
「残念ながら、彼がイタリア人なの」
彼女は隣に座っていた男性のほうを向いてそう説明した。
カルロという名のその男性は、1990年からイタリアサッカー協会で働いていて、今大会は代表の観戦を兼ねて彼女とブラジル旅行を楽しんでいるのだそうだ。
「さっきイタリア代表が泊まってるホテルに顔を出したら、ナカタが来てたよ」
日本サッカー協会で働く男性で、ガールフレンドと2人で代表チームの宿泊先に顔を出す人はいるんだろうか。
「明日の日本対イタリアの試合、どうなると思う?」
知り合って3分後、僕は単刀直入に訊く。
「たぶんかなり拮抗した試合になるよ。ブラジル戦の日本はどう考えても悪すぎた。イタリアは調子がよくないし。日本はイタリアみたいな相手は苦手としてないしね」
僕もなぜか、イタリア相手なら日本はかなりやれるんじゃないか、という気がしていた。