詳説日本野球研究BACK NUMBER
打撃優位のチームが躍進した、
夏の甲子園を総括する。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/25 10:30
第92回全国高校野球選手権大会は沖縄・興南の春夏連覇で幕を閉じた。
閉会式の準備に手間取っている間、興南アルプススタンドからウェーブの大波が発生。一塁側、バックネット裏、三塁側へとうねり、一瞬静止したかと思うと、東海大相模アルプススタンドでもウェーブはさらに広がり、大きな拍手がすべてのスタンドから湧き起った。敗れた東海大相模から送られた興南へのエール、その潔さに観客や関係者は胸を打たれた。ウェーブは3周して落ち着いたが、甲子園でこういうシーンを見たのは初めてである。
大量得点差がつく試合が多かった、今年の夏。
決勝は興南打線が爆発して、13対1と思わぬ点差となったが、今大会目立ったのは打撃優位のチームが多かったことだ。各試合の得点差を見てみると、以下のようになる。
◇ 1点差………12
◇ 2点差………4
◇ 3点差………7
◇ 4点差………5
◇ 5点差………2
◇ 6点差………3
◇ 7点差………6
◇ 8点差………2
◇ 9点差………1
◇ 10点以上……6
大量得点差と言っていい4点差以上が25試合あり、僅少差の3点差以内23を上回っている。また、1点差試合12のうち4試合は両チームが5点以上挙げているので、打撃優位の傾向は強かったと言えるだろう。チーム打率はベスト8以上に進んだチームのうち6チームが3割を越え、投手優位の選抜にくらべ、夏は打撃優位のチームが有利というデータがしっかり出ている。なお、ベスト8以前に敗退した41チームのうち、チーム打率3割越えは北大津.384、早稲田実.381、佐賀学園.327、仙台育英.302、鹿児島実.427、延岡学園.350、八戸工大一.324、中京大中京.303、大分工.353の9校だけである。
驚くべき興南の打撃技術はどうやって生まれたのか?
そんな中で特に際立っていたのが、興南の打撃である。途切れぬ波状攻撃は見ていて気持ちがよく、カタルシスさえ得ることができる。同型のチームを探すと黄金時代の池田(1982年)、智弁和歌山(2000年)を思い浮かべるが、ボールを呼び込めるだけ呼び込み、ホームベース上あたりで捉えて広角に強い打球を放つという打撃技術の高さは、池田、智弁和歌山を越えていたと思う。
バッティング練習に費やすのは実戦形式のシートバッティングを含めて2時間程度だが、興南らしいのは約1メートル、1.5キロの鉄パイプを使った素振りで、リードオフマンの国吉大陸によれば「ベース上でボールを捉えるイメージで、毎日100本やる」と言う。
これを、国吉を含めた全選手が実行しているところに興南の凄みがあるのだが、中でも最も捕手寄りでボールを捉えていたのが3番の我如古盛次である(写真)。「ここからバットが出るのか!」と叫びたくなるくらいミートポイントが捕手に近く、今大会は12安打8打点を挙げて、興南の優勝に貢献した。