ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
ブームを超え、成熟したゴルフ人気を!
松山英樹に求められる圧倒的な強さ。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2013/05/21 12:10
日本プロゴルフ選手権、大勢の報道陣を引き連れてラウンドする松山英樹。惜しくも日本人史上最速のメジャー制覇は逃したが、プロ転向後の4戦で10位、優勝、2位、2位と好調を続け、賞金ランキングトップを走っている。
松山に興味を持つのは一部の“ゴルフ好き”だけか!?
情報番組やワイドショーを巻き込んだ「遼ちゃんブーム」は社会現象になり、中年女性や子供たちを多く受け入れた。しかし現状、松山に対して強い興味を持つのは“ゴルフ好き”に限定されていると言える。
だがそこに松山の落ち度があるわけでは決してない。
石川の活躍には、発する言葉による豊かな表現力やスマートな振る舞い以前に、「年齢」という世界の共通言語がいつも付きまとっていた。“中学を卒業したての子供がプロゴルファーを倒してしまった!”という事実は、今後松山がどうあがいても獲得することができない極上のドラマなのである。石川のカリスマ性のスタートは、「15歳」という数字そのものだったのだ。
「有名人を見る」のではなく「ゴルフを観る」というオーガスタ。
ところで、人入りが少しばかり寂しい今年の男子ツアーの会場だが、数年前に比べてギャラリーの反応には変化が表れている。
観戦中に携帯電話を堂々と手に取ったり、お目当ての選手を追うべく、同伴競技者のプレーを待たずに歩き出したりといったマナー違反も減少している。コース内で一番多くの観衆を引き連れる松山に、運営側が過剰な警備を配置することはなく、ギャラリーを整理するスタッフの「止まってください! プレーに入ります!」と言った、ヒステリックな声も少なくなった。
ちなみに、マスターズの舞台であるオーガスタナショナルGCでは「プレー中は止まってください」といった注意を喚起するスタッフ用のボードが存在しない。景観を優先する目的ではあるが、パトロンが本来のゴルフ観戦への思いを共有しているからに他ならない。ただ「有名人を見る」ことを目的とするのではなく、「ゴルフを観る」ために来ているという本来のあり方が尊重されているのだ。
松山英樹の登場は、いずれ飽きられてしまう一過性のブームではなく、よりゴルフというスポーツにフォーカスして、その魅力を伝える絶好の機会。ここで、表面的な人気を稼ごうとするのではなく、“ゴルフ観戦の玄人”を増やすことに主眼を置く運営や報道にシフトしていくべきなのだ。石川のタレント性に惹きつけられ、興味を持った新規のファンを“ゴルフそのものの虜”にして逃さないことが、現状を打破する有力な手段なのではないか。