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NBAにも『マネーボール』の波が!
グリズリーズを再建したオタクGM。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNBAE/Getty Images
posted2013/05/10 10:31
大胆なトレードを繰り返してチームを強化したウォーラス。昨年は、アンファニー・ハーダウェイ、ジャスティン・ティンバーレイクなどが参加したファンドグループがこのチームを買収して話題ともなった。
エース級の選手を放出したトレードの英断。
グリズリーズは今季、チーム史上最多となる56勝をマークしてウェスタン・カンファレンスで5位となった。
今季の動きで注目されたのは、シーズン途中に1試合平均17.2点をマークしていたエースのルディ・ゲイを三角トレードでラプターズに放出し、一線級とはいい難い3人の選手を獲得したことだった。
目的は、大きくふたつあった。
(1) 年俸の高いゲイを出して、年俸総額を抑制する
(2) ゲイにボールが渡ると滞りがちだったオフェンスを、全員にシュートチャンスがあるスタイルに変える
チームの柱となる選手を出したことは、大きな波紋を呼んだのも事実だった。グリズリーズは、プレーオフを諦めたのか、と。
このトレードを主導したのはホリンジャーの方で、年俸を抑え、手持ちの選手から最大限の成果を引き出す。発想としては『マネーボール』の元祖、メジャーリーグのオークランド・アスレティックスとほぼ同じである。
グリズリーズのトレードは見事に成功し、ゲイがプレーしていた間は、29勝15敗だったが、トレード後は27勝11敗と勝率で上回った。ゲイの陰に隠れていたマイク・コンリーや、マーク・ガソルがオフェンスで見事な働きを見せたからである。
プレーオフでもこの勢いは止まらず、1回戦で第4シードの格上のクリッパーズを破り、セミファイナルでも第1シードのサンダーに土をつけている。
思い切ったトレードが功を奏したのだ。
様々なスポーツに波及する『マネーボール』的な発想。
現在、NBAで『マネーボール』的な発想をしているチームはグリズリーズとヒューストン・ロケッツだ。ロケッツも大胆なトレードを断行して、今季はプレーオフまで駒を進めた。
『マネーボール』がアメリカで出版されたのは2003年、いまからちょうど10年前だ。NBAでもアイディアを応用できないかと試行錯誤が始まり、10年の歳月を経て注目を集めるようになった。
アメリカン・フットボールのNFLでも、「投資に対して最大限のリターンを生む選手」を探す努力が続けられている。
野球では『マネーボール』派と、従来のスカウト網を重視する『オールドスクール』派が拮抗し、現在は球界全体として見れば、いいバランスが保たれているように見える。
間違いなくいえるのは、ポスト・マネーボールの時代の選手を見る眼は確実に進化したということである。
それに対してバスケットボールは数量化、統計化が難しいとされていたが、グリズリーズの快進撃を見ると、NBAの世界でも『マネーボール』の流れが強まることは、間違いないと思う。
とても、面白い時代になったものだと実感してしまう。