MLB東奔西走BACK NUMBER
サイ・ヤング賞にはコレが足りない!?
ダルビッシュに課せられたある課題。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2013/05/10 10:30
2年目のレンジャーズで先発ローテーション2番手としてエース級の働きをみせるダルビッシュ有投手。地元メディアからもサイ・ヤング賞候補として、早くも名が挙げられている。
シーズン開幕以来、ダルビッシュ有投手の投球が注目を集めている。
今季初登板となった4月2日のアストロズ戦で、26アウトまで完全試合を続けた圧倒的な投球を披露すると、その後も安定した投球を続け、メジャー2年目でいよいよ下馬評通りの才能を発揮し始めている。
特に奪三振数では、ア・リーグばかりかメジャー全体で大差をつけてトップを独走する。すでに日本のメディアから、2002年のランディ・ジョンソン、カート・シリング両投手が記録して以来のシーズン300奪三振を期待する声が上がっているのは周知のことと思う。
だが日本での過熱気味の報道とは裏腹に、個人的にはダルビッシュの投球に多少の“物足りなさ”を感じている。
もちろん彼の投球内容は絶賛に値するものだと思うし、現在のダルビッシュはメジャー屈指の好投手であることに疑いの余地はない。昨シーズン終盤の投球から、今年のキャンプ、前述のアストロズ戦の投球を見てきたなかで、すでにダルビッシュはメジャーへの適応がほぼ完了し、今シーズン、サイ・ヤング賞の有力候補だと捉えている。
4月12日のマリナーズ戦で、大乱調の立ち上がりながらスライダーに活路を見出し、6イニングまで踏ん張った投球。今年のダルビッシュの簡単には崩れない姿を確認し、その思いを更に強くしているくらいだ。
だからこそ……「サイ・ヤング賞有力候補」という高い視点から改めて彼の投球を観察してみたい。そうなると、「サイ・ヤング賞間違いなし!」とは決して言い切れない要素が見えてくるのである。
ダルビッシュに立ち塞がる“7イニング”の大きな壁。
例を挙げてみると、4月のダルビッシュは6試合に登板し、5勝1敗、防御率2.33の成績を残した。
この月の月間最優秀投手賞を受賞したクレイ・バックホルツ投手の成績(5勝0敗、防御率1.19)と遜色ないものだといっていい。だが別の側面から考察すると、2人にはちょっとした差が出てくるのがわかる。
ダルビッシュ | バックホルツ | |||
投球回数 | 球数 | 投球回数 | 球数 | |
1戦目 | 8.2 | 111 | 7 | 94 |
2戦目 | 5 | 85 | 7 | 113 |
3戦目 | 6 | 108 | 8 | 109 |
4戦目 | 7 | 111 | 8 | 104 |
5戦目 | 6 | 100 | 7.2 | 109 |
6戦目 | 6 | 108 | ―― | ―― |
上記の表は両選手の投球回数(イニング数)と球数を比較したものだが、右手薬指のマメの影響で早期降板した第2戦を除いても、同じような球数ながらダルビッシュの投球回数が短いのがわかる。
ダルビッシュが7イニング以上投げたのが2試合に対し、バックホルツは5試合すべて7イニング以上投げている。
この差こそが、サイ・ヤング賞有力候補という視点から捉えたダルビッシュに感じている“物足りなさ”なのだ。