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慣習多き日本プロ野球。
変革は個人の熱意で始まる。
~『日本プロ野球改造論』を読む~
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph bySports Graphic Number
posted2013/05/17 06:00
『日本プロ野球改造論 日本プロ野球は、 日本産業の縮図である!』 並木裕太著 ディスカヴァー携書 1000円+税
オリックスとの合併交渉が報じられた近鉄を、ライブドアが買収したいと名乗り出る。対話を求めた古田敦也選手会長を、巨人オーナー渡邉恒雄が「たかが選手が」と切り捨てる……。
揺れに揺れた球界再編問題が楽天の新規参入という形で決着をみた2004年秋、新たに出揃った12球団のもとに海の向こうからメールが届いた。その送り主こそ本書の著者、並木裕太である。
外資系コンサルティング会社を休職中だった並木は、留学先のアメリカで球界再編の報道に触れた。その経過を注意深く追っていると、野球少年だった頃の夢と、社会に出て学んできた現実が思いがけずつながった。
「学生の時は、プロ野球選手になる以外に野球への関わり方が想像できなかった。でも、ふと気づいたんです。自分がこれまでコンサルタントとして経験してきた仕事と、プロ野球のビジネスって実は同じなんじゃないかと」
並木を球界に導いたのは楽天の〈お問い合わせ〉用アドレスだった。
いかにホテルの客室を効率的に稼働させるか。航空券のベストな値段設定の方法は何か。自分が関わってきた業界のノウハウを応用すれば、球団の収益を10%、いや20%上げることができる――。
思いのたけを綴ってはみたが、球界に伝手などない。並木に唯一開かれている窓が、球団HPの片隅に載せられていた〈お問い合わせ〉用のアドレスだった。
実のある返事などないだろうという予想は、裏切られる。楽天の球団社長(当時)島田亨から「ぜひお会いしたい」と返信がきたのは、12球団すべてにメールを送ったわずか20分後のことだった。
これを機にプロ野球ビジネスに携わるようになった並木は、'09年に起業。楽天を含む複数の球団とタッグを組んでスタジアムの画期的な料金設定を開発するなど着々と実績を重ねた。そして'11年、島田の誘いで、球界の最高意思決定機関、オーナー会議でプレゼンテーションを行なう機会を得ることになる。