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<西武躍進を支える投球術> 牧田和久 「強力打線を弄ぶ千手観音サブマリン」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/05/20 06:00
彼が投げれば、130kmそこそこのボールが魔球に変わる。
いつだって飄々とアウトの山を築く球界随一の技巧派が、
並み居る強打者を幻惑する投球術の秘密を語った。
いつだって飄々とアウトの山を築く球界随一の技巧派が、
並み居る強打者を幻惑する投球術の秘密を語った。
食後に飲む、熱いお茶が好きだ。
確かに、普段着の彼にはそんな姿がピンと来る。どんなに熱くても平気な顔をして、のどかにお茶をすすっていそうだ。
「でも、熱すぎるのは嫌です(笑)」
こうだと決めてかかると、肩すかしを食らう。つかみどころがなく、いつでも落ち着き払っている。ライオンズの石井貴ピッチングコーチは、彼を評してこう言った。
「まるで、投げる前に打たれることを察知してるみたいだね。打たれそうだと思うと、スッと抜いたり、わざと外したり……ホント、あの人だけはわからない(笑)」
お茶どころ、静岡県出身の牧田和久。プロ3年目、28歳のアンダースローは、WBCでクローザーの大役を託された。紅白戦から壮行試合、強化試合、本戦を通じて1点も失わなかったのは、日本の投手陣の中で牧田だけ。目立ったピッチャーは前田健太でも、終始、安定感を示していたのは、表情ひとつ変えることなく、淡々と投げ続けた牧田だった。
「いや、すごく緊張しましたよ。ブルペンなんか、ひどいもんでした。でも、マウンドに上がるとスイッチが入るんです。そうするとまったく緊張しない。しかも、高めのつり球を外国人は振りますからね。高めのまっすぐにあのスイングをしてくれたら、ボールとバットに当たるところはないと思ってました」