リーガ・エスパニョーラの愉楽BACK NUMBER
目立たないけど“当たり前”に勝つ。
W杯を制したデルボスケの哲学。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byUniphoto Press
posted2010/07/30 10:30
W杯と欧州チャンピオンズリーグを制した監督となったデルボスケ。リッピ(イタリア)に続き、史上2人目の快挙
局面を冷静に判断し、選手を信頼しながらも執着せず。
また、ブスケッツとシャビ・アロンソのタンデムは、W杯開幕から決勝まで、スペインにとっては生命線となるコンビだった。最終ラインの前のスペースを埋め、中盤のパス回しにも絡む。彼らなくして優勝はなかったと言えるほどの活躍ぶりだった。
このタンデムはデルボスケ自らが築き上げ、絶対的な信頼を寄せていたが、デルボスケは決して彼らに執着していたわけではない。
この2人を同時に起用することでピッチ上の11人はパスサッカーを展開する上で絶妙なバランスを保てるわけだが、試合の均衡を崩す必要に迫られたとき、デルボスケは躊躇なく片方を外した。オランダとの決勝ではシャビ・アロンソに代えてセスクを投入し、そのセスクはイニエスタの決勝ゴールをアシストした。よりゴールに絡もうとするセスクだからこそ、あの場面でペナルティエリア手前まで上がり、こぼれ球を拾ってラストパスを放つことができた。
「起こり得る状況を想定し、その対処法を用意しておく」
スペインがオランダを倒してW杯を制した数時間後、私がマドリッドに向けてヨハネスブルクを飛び立った飛行機にいた時の出来事だった。デルボスケの現役時代から親交のあるロベルト・ゴメス記者を通じて、デルボスケ本人と電話でだが話す機会があった。冗談を交えながら話すデルボスケは、つい先ほどまでW杯という舞台で戦っていた勝負師には到底思えなかった。だが、会話の中でデルボスケが放った一言に、名将たる彼の哲学を垣間見た気がした。
「私は特別な直感など持っていない。だからこそ、できるだけ多くの起こり得る状況を想定し、その対処法を用意しておくんだ。そういう仕事のやり方でも、素晴らしい選手たちの力を借りれば、彼らの才能に見合った結果を勝ち取れる。『シンプルなプレーを選択するのが最も難しい』という言葉があるが、それは私たち監督にとっても同じ。じゃあ、どうすればシンプルな采配をとることができるのか。それは対戦相手と自らのチームの力関係をよく理解し、自らのチームがどういう状態にあるのか常に把握した上で、勝つ可能性を広げていくことだと思っているよ」