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プロ野球「地域密着」型経営の秘訣。
顧客満足に必要な前提条件とは?
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2013/04/23 10:30
ファイターズが売り出した婚活シートで盛り上がるファン。写真は2009年7月の模様。
「顧客満足」はターゲットとコンセプトの決定から。
明確なターゲットとサービスコンセプトを定めるメリットとは何だろうか。
1つ目は従業員スタッフの働き方に関係する。誰にどんなサービスを提供すればよいかを理解できるため、ビジョンに向かって効果的な企画・施策を立案することができる。施策にぶれがなくなる。先ほどのユニークなチケットプログラムは、まさにターゲットとしている顧客を的確にインクルージョンしている1例ではないだろうか。
2つ目は、カスタマーマネジメントからの視点である。サービスコンセプトが明確に表現されていると、そのサービス体験をしたいと思う顧客だけが来場する傾向が強くなる。球団側にとっても、万人に様々なサービスを提供するのではなく、より共感をしてくれる可能性のある顧客にサービス提供を絞ることができ、やるべきことを強く認識して行動できるため、サービスクオリティの向上も期待できる。サービスクオリティが高まれば、顧客の満足度もあがる傾向になる。
重要なことは、従業員が「どのような顧客」に対し、「どのようなサービスを提供するか」ということを正しく理解しているということである。これが顧客満足度を上げる大前提である。
そうでなければ、従業員はすべての人にその人にあったサービスを提供することになり、疲弊する。そればかりか、すべての人を満足させようと頑張ることに対する弊害が生じる。したがって、顧客満足度とはどういう顧客のことを指しているのか、そしてその人々はどのようなことを求めているのかを把握しない限り、従業員は顧客満足度をあげるための適切なクオリティのサービスを提供することができない。
「顧客満足」や「従業員満足」を唱える際には、企業もまずは「ターゲット顧客」と「サービスコンセプト」を明確にし、自社にとって適切な顧客を選ぶ必要がある。
そして従業員がそれを正しく理解していることも合わせて重要である。その方法は今回のような企業理念だけではない。事業方針や日々のコミュニケーションの中で伝える方法もあろう。
「顧客満足や従業員満足を上げる」という言葉だけが踊っていないか、そのためにまずは顧客の定義やサービスコンセプトを押さえているのか、その戦略を含め足元をしっかり見たい。
そして、今年もファイターズをはじめスタジアムで提供される様々なプログラムを思う存分楽しんでほしい。
今回のポイント
◆顧客満足を上げるためには、まず従業員自身が「自社のターゲット顧客」と「自社のサービスコンセプト」を理解している必要がある
◆ターゲット顧客像とサービスコンセプトが明確になると、従業員もやるべきことが明確に見えてくるため、サービスクオリティの向上につながりやすい
【参考資料】
・『パ・リーグがプロ野球を変える』(大坪正則)
・『カスタマー・ロイヤルティの経営―企業利益を高めるCS戦略』(ジェームス・L・ヘスケット、レオナード・A・シュレシンジャー、W・アール・サッサー・JR)
「千葉ロッテマリーンズの挑戦」
~顧客満足度を高めるマーケティング戦略~
原田卓也氏(株式会社千葉ロッテマリーンズ
事業本部企画部 部長代理)
葛山智子氏(グロービス経営大学院准教授)