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伝説のウルトラランナーは
菜食主義者の「変態」だった。
~「EAT & RUN」で明かした半生~
text by
サハラタカシTakashi Sahara
photograph bySports Graphic Number
posted2013/04/12 06:00
『EAT & RUN 100マイルを走る僕の旅』 スコット・ジュレク/スティーヴ・フリードマン著 NHK出版 2000円+税
全行程217km、路面温度は100℃以上の超過酷レースも。
例えば、全行程135マイル(217km)を制限時間60時間以内に走破するバッドウォーター・ウルトラマラソン。距離もさることながら、開催地は最高気温56.7℃を記録した世界で最も暑い場所であり、路面温度は100℃以上。暑さのあまり、シューズメーカーが参加者に提供した靴の靴底がほとんど全員溶けてしまったという逸話が残っているほどである。
他にも、ドイツから北デンマークまでの300kmを7日間で歩くハーヴェイヴァンドリング・ウォークや、古代ギリシャにレースの起源を持つスパルタスロンなど。マラソンの枠からは外れるが、天台宗の千日回峰行という修行にまで言及している。
靭帯を断裂したまま優勝したというジュレクの超人エピソード。
ジュレク自身も見かけの爽やかさによらず、とんでもない「変態」であった。精神の限界を超えるべく、自分を追い込み、痛みを求めて走り続ける。彼のストイックさは尋常ではなく、100マイルレースを完走した2週間後に135マイルのレースに出たり、靭帯を断裂したまま優勝したりと、超人エピソードは枚挙にいとまがない。
筆者はアイアンマンレースの補給食にビーフジャーキーを持っていくような肉好きであるが、あまりにも簡単に書いてあるので、食生活を菜食主義にシフトすればもしかして……と気づけばバッドウォーター・ウルトラマラソンについて調べはじめていた(言うまでもなく、すぐに挫折したが)。
ひ弱な草食系男子が何かと話題になる現代日本にあって、意志の強い菜食主義というのは、一度真剣に考える価値のある男子像なのかもしれない。