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“アイスマン”ライコネンが逆転優勝!
F1開幕戦で繰り広げられた頭脳戦。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2013/03/18 11:30
レース後のコメントはアイスマンらしく「かなり単純だった。最も楽な優勝のひとつかもしれない」だった。以下順位はF・アロンソ、S・ベッテル、F・マッサ、L・ハミルトン、M・ウェバー、A・スーティル(以下省略)。
1996年からオーストラリアGPの舞台となっているアルバートパーク。今年はF1としては18回目の開催だが、じつはアルバートパークでのオーストラリアGPの歴史は1953年に遡る。つまり、2013年は60周年だった。
日曜日の昼過ぎ、アルバートパーク・サーキットで記念の式典が催された。
その式典は、2人のオーストラリア人ドライバーの銅像の除幕式だった。そして、その2人とも60年前のアルバートパークでのオーストラリアGPとゆかりがある。ひとりは'53年のレースに参加したジャック・ブラバム。'59年、'60年、'66年の3度ワールドチャンピオンに輝いたブラバムだが、'53年の大会では予選でマシントラブルに見舞われ、レースをスタートさせることなく去った。
もうひとりは'80年のワールドチャンピオンであるアラン・ジョーンズだ。'46年生まれのジョーンズ。'53年のレースは参加していた父親のスタンの応援だった。スタンはレースをリードしていたが、ピットストップで燃料が漏れて引火するという事故によって、勝利を失った。
除幕式で司会者から「今日のレースで勝つのはだれでしょうか?」と尋ねられた2人はこう答えた。
「私はベッテルだね」(ブラバム)
「ドライなら、アロンソかな」(ジョーンズ)
2人の予想に、間違いはなかった。
ブラバムが推したセバスチャン・ベッテルは予選でポールポジションを獲得し、レースでも序盤をリードした。一方、ジョーンズが優勝候補に挙げたフェルナンド・アロンソも、レース中に何度かトップに立った。しかし、アルバートパークでオーストラリアGPが行われてから60年後の今年、湖を囲む周回路を利用して作られた公道コースで、ベッテルとアロンソを逆転して勝利したのは、キミ・ライコネン(ロータス)だった。
ベッテルやアロンソより、タイヤ・マネジメントで勝るライコネン。
'07年チャンピオンのライコネンの強さは、タイヤのマネジメントにある。その真骨頂とも言えるレースが、'05年の日本GPである。
当時のF1はレース中にタイヤを交換することが禁止されていた。複雑なコースレイアウトでグランプリ中もっともタイヤに厳しいと言われていた鈴鹿は、ドライバーの腕が試されるグランプリとなっていた。その日本GPでライコネンは17番手からスタートしながら、上位勢がタイヤのマネジメントに苦しむ中、着実にポジションを上げ、ファイナルラップにトップに立つという華麗な走りで優勝したのである。