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個性豊かな選手たちが刻んだ、
プロ野球の“伝説”を検証する。
~二宮清純、最新刊の衝撃~
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph bySports Graphic Number
posted2013/01/23 06:00
『プロ野球「衝撃の昭和史」』 二宮清純著 文春新書 750円+税
「昔は個性の幅が今よりもずっと大きかった」
木を見て森を見ず、という諺を持ち出して「僕は年輪を見るのが好き」と語る二宮の精緻な視点と、語るべき時を迎えた証言者たち。過去をなぞるだけの類書と違って、本書が単なる懐古趣味にとどまらない魅力を備えているのは、その両者の邂逅があってこそだろう。
さらに読者を楽しませるのは、改めて浮き彫りになる登場人物たちの豊かな個性である。対戦した打者に「天井からボールが飛んでくる」と言わしめた巨人時代のジャイアント馬場、ど派手な乱闘を仕掛けたカネやんこと金田正一、前代未聞の背面投げで王貞治に挑んだ投手……。優等生の増えた現在の野球界からは生まれようのない“奇談”が目白押しなのだ。
「昔は個性の幅が今よりもずっと大きかった。それに、彼らの言葉には体温があったような気がします。全てがむき出しになっていたというか」
強烈な「個」と「個」がぶつかりあったからこそ、昭和のプロ野球は観客ごと呑み込むようなドラマに満ちていた。
「伝説になっている出来事は氷山の一角にすぎない。それぞれの事件が噴火だとしたら、地層では複雑な人間関係や感情がマグマのように絡み合っている。今回検証したエピソード以外にも、発掘すべきテーマはまだまだあります。この本は僕にとって、まだ第1ラウンドなんです」
往時の熱を体験したオールドファンにとっては懐かしくも新鮮。伝説としてしか知らない若い読者にとっても、ネットでは読めない真実の記録として、本書がもたらす感銘は大きいに違いない。