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巨人とWBCのピンチを救うヒーローへ!
中継ぎエース・山口鉄也のメンタル術。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2013/01/24 10:31
2012年4月1日のヤクルト戦。7回表1死満塁の場面で、巨人移籍後初の登板だった杉内俊哉から交代した山口(写真右)。見事にピンチをしのぎ、守護神・西村健太朗へとつなぎ、杉内に嬉しい初勝利をもたらした。
通算186ホールドポイントは歴代1位。プロ野球史上、唯一無二の5年連続60試合登板。特に昨季は、開幕から24試合連続無失点のセ・リーグタイ記録をはじめ、72試合の登板で防御率0.84と圧倒的な数字を残した。
強烈な記録は、巨人の山口鉄也がいかにリリーバーとして絶対的な地位を確立しているかを示している。
中継ぎや抑えに何より求められるのは、強いメンタリティだ。
マウンドに上がる時は決まって厳しい展開。1点差や得点圏に走者を置いた場面で投げることも日常的な出来事と言っていいだろう。
失点すれば先発投手の勝ちを消すこともあるし、チームが負けてしまうこともある。失敗など絶対に許されない。
だからこそ山口は、攻めの姿勢を貫く。
中日の岩瀬仁紀以上とも言われる、切れ味鋭いスライダーを不利なカウントでも平気で投げ、チームメートの杉内俊哉をして「エグい」と唸らせたシュートで打者の懐を容赦なく突く。
「自分は本当にマウンドに上がるたびに緊張しっぱなしなんです」
強心臓。山口の投球スタイルは、その表現がよく似合う。
しかし、当の本人はそのことについて、昨季ですらはっきりと否定していた。
「数字とかを見れば安定しているように思われますけど、個人的には全く実感がないというか。そこまで自信があるわけではないので」
自信がない――。
他の力を凌ぐパフォーマンスを誇りながら性格は驚くほど控えめ。とはいえ、ひとたびマウンドに上がればアドレナリンが全身を駆け巡り、控えめな自分を瞬時に消し去る。そんな投手が多いのも事実だ。
山口は言った。
「自分は本当にマウンドに上がるたびに緊張しっぱなしなんですよ」
緊張する自分を認めてしまうということは、「中継ぎや抑えは向いていない」と言っているようなものだ。
だが、彼は結果を残している。
「ジャイアンツだから、というのもあると思いますね。勝ちを義務付けられているチームなので常に緊張感を持って試合に臨めますし、多くのファンの方がプレッシャーのかかる場面を『抑えてくれ』と思いながら見てくださっているので、絶対に気は抜けないです」