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“新しい”岡田武史と日本代表が、
デンマークを破って伝説を作った夜。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2010/06/25 10:50
岡田監督の指示が無くとも、選手達が自主的に動く!
デンマークは得失点差の関係で、勝たなければE組の2位になることはできない。崖っぷちに追い込まれた彼らは、後半から前線に4人を並べ、ロングボールを放り込む作戦に出た。
このとき岡田監督は阿部がDFラインに下がって対処するように指示を出したものの、ブブゼラの音によって声がかき消され、選手たちには届かなかった。
しかし、選手たちは自分たちの判断で、阿部と長谷部をDFラインに下げ、ロングボールをはね返し続ける。後半36分に長谷部がアッガーを倒してPKを与え、1点を返されたが、やられたのはこれのみ。終了直前に岡崎慎司のゴールが決まり、2位争いの行方に決着がついた。
試合後、岡田監督は選手たちの成長を称えた。
「日本は世界の中で、トップレベルの本気の試合をなかなかできない。多くの選手にとって、本気の相手とやったらどうなるんだろう、という手探りの状況でした。それがW杯でプレーしてみて、『実はこれくらいできるんだ』、『攻撃を無理しちゃうとやられるんだ』、そういうことを選手が肌で感じてつかみ出してくれた。日本はボールをつなぐのが得意ですが、中盤で手数をかけすぎるとカウンターを受ける。そのへんのさじ加減を選手ができるようになったのが大きかったです」
「選手の成長」こそ、グループリーグ突破の最大の要因だ。
グループリーグを突破できた理由は、ひとつではない。
高地順化を成功させた杉田正明・三重大准教授、相手の弱点を洗い出した分析チーム、チームの運営を支えたスタッフたち。デンマーク戦後の記者会見で、岡田監督は「全員に感謝したい」と語った。
だが、何が一番大きかったかといえば、「選手の成長」ではないだろうか。
先発メンバーの中に、過去のW杯でピッチに立った経験があるのは、中澤佑二と駒野友一だけだった。経験の少ない選手たちが、プレッシャーに打ち勝ち、自分の立ち位置を知ったことで、チームは劇的に変化した。
試合後、長谷部はミックスゾーンで言った。
「たとえ相手がパラグアイだろうが、もう簡単にやられる気はしませんね。ただ、デンマーク戦で攻撃できたとはいえ、それは相手が先制されて前に出てきたから。この手応えを確実なものにするために、さらに上を目指したいです」
これまで誰も正確に測れなかった世界との距離を、彼らはもう知っているのかもしれない。