南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
W杯3戦で岡田監督が手に入れた、
「日本サッカー」のリアルなスタイル。
text by
西部謙司Kenji Nishibe
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/06/25 13:00
2006年7月、イビチャ・オシム氏が代表監督に就任したとき発した「日本代表チームの日本化」は、キーワードであり呪縛でもあった。
オシム氏が病に倒れた後、後任の岡田武史監督は「日本化」とまでは言わなかったが、日本オリジナルのスタイルを模索することに腐心していた。
「接近・展開・連続」
「欧米が10キロ走るなら日本は11キロ走る」
「ニアゾーン」
「インナーゾーン」
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などなど……日本独自のスタイルを見つけるための、様々なコンセプト・ワードが出ては消えていった。結局、岡田監督の掲げた「世界を驚かす」はずの日本オリジナルもまた、数々の言葉と同じように泡のように消え去ったのだが。
理想を掲げ、最終的に極めて現実的に処理する岡田監督。
岡田監督は横浜F・マリノスを指揮していたときから“退却戦”の名手だと思っていた。
横浜F・マリノスの監督就任時には攻撃的サッカーを標榜し大胆な理想を語ったが、成績が低迷し始めると、いつも現実的かつ守備的になっていった。戦術的に後退したとメディアから叩かれながらも、リーグ優勝を含めた優秀な成績を残す監督だったのだ。いつも理想を掲げて出発するが、ある時点でキッパリ理想を捨てて現実主義に走る。それが岡田監督なのだ。
最善ではなく次善の策で現実に対処し始めるのだが、この監督の本領はそこから発揮されるのが常だった。今回も、壮行試合で韓国に敗れてから腹を括ったようだ。それまでの理想を体現したかのようなスタイルを修正し、ワールドカップ用の現実的な戦い方に転換した。
イングランド、コートジボワールとの強化試合を経て、W杯に臨む日本のスタイルは堅守速攻型になった。日本のオリジナルというより、典型的な弱者の戦法である。
世界的なスタンダードである4人×2ライン、さらに2本のラインの間に阿部勇樹を起用してスペースを埋める。攻撃は両翼の大久保嘉人、松井大輔のドリブル、1トップ・本田圭佑の巧みなキープとパスを使いながらカウンターを仕掛ける。
日本人の長所のひとつが「正確で速いポジショニング」。
世界標準の守備ブロックを作る手法に本格的に着手したのは、強化試合のイングランド戦からだった。そこから2試合で、日本はこの守り方をモノにしている。それが可能だったのは、もともと日本人はゾーンディフェンスにおける正確で速いポジショニングという長所を持っていたからだ。
Jリーグだけでなく、高校生年代においても、この長所はよく外国人指導者を感嘆させていたものだ。