スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
パート4の実現と電撃カウンター。
~パッキャオの墜落で想起した一戦~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2012/12/15 08:01
第6ラウンド終了間際に飛び出したマルケスの右に沈んだパッキャオ(写真左)。13年ぶりに喫したKO負けだった。
パッキャオの左足が踏み込まれた。
マルケスの右足がすっと右に動いた。
あ、と私は叫んでいた。
直後、パッキャオが前のめりに落ちた。
マルケスの右ストレートが、パッキャオの右あごを射抜いていた。あのパンチは見えなかった、と試合後にパッキャオは語った。撃ち落とされた、あるいは撃墜された、としかいいようのない倒れ方だった。
マニー・パッキャオ対フアン=マヌエル・マルケスの4度目の対戦は、6ラウンド2分59秒に驚きの結末を迎えた。テレビの前で固唾を呑んでいた人たちは、こぞってうなり声をあげたにちがいない。私も愕然とした。最近のパッキャオに翳りが見えていたことは事実だが、相手のマルケスは、パッキャオよりも6歳年上の39歳だ。楽な勝負にはならないだろうが、パッキャオの優勢は否みがたいのではないか――これが多数派の予想だったことは想像に難くない。
これまでの3試合はパッキャオが僅差でものにしてきた。
映画と同じで、ボクシングのビッグカードは3部作で幕を閉じるケースが多い。パート4までもつれるケースはめったにない。大体は、その前に決着がつくからだ。
が、パッキャオとマルケスは手が合った。これまでの3戦は、すべて僅差の判定にもつれこんだ。結果はパッキャオの2勝1分けだが、3戦ともマルケスが勝っていたと見る人も少なくない。前に出るパッキャオとカウンターの名手マルケス。この構図だけでも十分なのに、両者とも気性がアグレッシヴだ。
パッキャオの激しさはいうまでもない。機関車のように前進し、機関銃のようにパンチを繰り出す。連打の嵐は当たり前で、狙った獲物はかならず仕留めるイメージが強い。
一方のマルケスも、穴にこもってカウンターを狙うタイプではない。相手が引けば、すかさず前に出る。接近戦でも中間距離でもロングレンジでも攻撃の形を組み立てられるのが彼の特性だ。つまり、遊撃的に動きながら電撃カウンターの機をうかがう、といいかえてもよいだろうか。