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西武逆襲の鍵は若獅子の全力疾走!
挫折に磨かれた秋山翔吾が輝くとき。 

text by

加藤弘士

加藤弘士Hiroshi Kato

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2012/10/11 11:05

西武逆襲の鍵は若獅子の全力疾走!挫折に磨かれた秋山翔吾が輝くとき。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

バッティングでの貢献だけでなく、積極的な守備でもしばしばチームの危機を救った秋山。ゴールデン・グラブ賞について聞かれると、「守備はアピールしたい」と語っている。

 発展途上の若者を追いかけることは、スポーツ観戦の楽しみ方の一つと言える。ダイヤの原石が成功と失敗を経て、磨かれ、輝きを増していく。同時代を生きて、その過程をともに体験することは、喜びでもある。

 ライオンズの若獅子・秋山翔吾のプレーを眺めるたび、そんなことをふと、考える。走攻守三拍子揃い、今季は2番打者として活躍。6月上旬には最下位に沈んでいたチームを、2位浮上へと導いた立役者だ。彼の「いま」と「これから」に思いを馳せると、自然と胸が高鳴る。

 秋山はレギュラーシーズンを終え、大卒2年目で初めて規定打席に達した。今季はケガによる離脱を2度経験し、出場試合数は107止まり。ギリギリでの到達になった。

 それでも打率2割9分3厘はリーグ6位の好成績。楽天・田中将大や広島・前田健太ら好投手を多数輩出した「88年世代」の中でも、12球団で規定打席に達しているのは、巨人・坂本勇人と秋山の2人だけだ。誇るべき数字だと思うのだが、満足はしていない。

「統一球で根こそぎ打率が下がったとしても、打者の目標は3割。そこに届かなかったのは、やっぱり悔しい。そういう思いがありますね」

怪我に苦しめられたシーズン序盤の挫折が、秋山を強くした。

 今季の8三塁打は12球団でトップ。強烈な打球が外野の間を抜け、ダイヤモンドを疾走する背番号55の姿が思い浮かぶ。加速を後押しする、西武ドームの大歓声も――。

「外野の間を抜ける打球は、基本的に三塁を目指す気持ちで走らないと……と思っています。一つでも前の塁にいることが大事。後ろが中島さん、中村さんというのもある。球場の雰囲気も変わりますしね。気持ちよさというか、達成感がある。あと、自分で守っていて思うんですが、三塁打って打たれると、嫌ですよね。きつくて、心に『ズン』と来る」

 2012年は、のっけからつまずいたシーズンだった。3月上旬には左太もも裏を痛め、開幕は二軍で迎えた。6月下旬には右太もも裏痛を発症し、7月中旬まで一軍を離れた。だが、この挫折こそが、自らを強くしたと話す。「お忍び」で西武ドームを訪れ、客席から一軍の試合を観戦したことが、何度もあったというのだ。

「自分を実戦の感覚、一軍の雰囲気から離したくなかったんです。外野を守る先輩達がセンターに入って、悔しいというか……。純粋にチームの勝利を応援できないところも、正直なところ、ありました。この場に入っていけない自分が、正直、もどかしくて」

 戦いの輪に加われず、波に乗れないチームを眺めることしかできない自分――。そこで抱いた情念こそが、一軍復帰後の活躍を生んだことは想像に難くない。そして外からグラウンドを眺め、気づいたことはもう一つあった。スタンドから一緒に闘ってくれる、ファンの存在だ。

【次ページ】 出囃子は、ザ・ブルーハーツの「人にやさしく」。

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