濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
シュートボクシングだから成立した、
宍戸vs.鈴木の“ありえない試合”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2012/09/21 10:30
9月17日、後楽園ホールで行なわれたシュートボクシング「Road to S-cup~act.4」。現日本スーパーウェルター級王者の鈴木悟を相手に、宍戸大樹が1R1分30秒でKO勝利。シュートボクシングの顔ともいうべき存在が意地とプライドを見せた。
会長の愛弟子という負けられないポジション。
シュートボクシングは、プロモーションではなく“団体”である。様々なジムから選手が参戦する“プロモーション”とは違い、主軸となるのは加盟ジムと所属選手。そこに海外やフリー、他団体の“外敵”が絡むという構図がマッチメイクのベースとなる。
宍戸は、そんなシュートボクシングの創始者・シーザー武志会長が率いるシーザージムの所属だ。彼は試合前、「4連敗もしている人間がメインで査定試合をやらせていただけるなんて、普通では“ありえない”ということも理解しています」と語っている。確かに、このチャンスは看板選手というだけでなく、創始者の愛弟子、本部道場のトップという立場でもある宍戸だからこそ得られたものではあるだろう。
負けて恥を晒し続けるのも“団体のエース”としての責任。
だが同時に、昨年6月から今年6月までの1年間で喫した4連敗も、その立場とは無関係ではなかった。彼には長期休養でのリフレッシュや、中盤戦で“手頃な相手”と闘って調子を取り戻すことが許されなかった。常にトップ戦線で強敵と闘うことで、興行を支える必要があったのだ。言い換えるなら、負けて恥を晒し続けるのも“団体のエース”としての責任だったのである。
「本部道場から『S-cup』という最高の舞台に出る選手がいないのはおかしなこと。自分が生え抜きだという意識はありましたが、それを考えると怖くなった。今日はウォーミングアップの時から異常なくらい汗が出ました。負けたら終わり。精神状態が違いましたね」
試合前の極度の緊張感を、宍戸はそう振り返った。観客もその緊張感と、4連敗という屈辱を共有していたはずだ。だから、宍戸が勝った瞬間は立ち上がらずにいられなかった。
シュートボクシングが“団体”であるからこそ“普通ではありえない”試合は成立した。そして、普通ではありえないほどの興奮を観客にもたらしたのだ。