濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
シュートボクシングだから成立した、
宍戸vs.鈴木の“ありえない試合”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2012/09/21 10:30
9月17日、後楽園ホールで行なわれたシュートボクシング「Road to S-cup~act.4」。現日本スーパーウェルター級王者の鈴木悟を相手に、宍戸大樹が1R1分30秒でKO勝利。シュートボクシングの顔ともいうべき存在が意地とプライドを見せた。
9月17日のシュートボクシング後楽園大会は、メインイベントで最高の盛り上がりを迎えた。観客の多くが座席から立ち上がって拍手を贈り、試合後もしばらくは足が出口に向かなかった。そこにあったのは、“ありえない試合”の興奮だった。
11月に開催される70kg級世界トーナメント『S-cup』の日本代表最終査定試合。おそらくは勝ったほうが出場権を得る。
青コーナーから入場したのは宍戸大樹。看板選手の一人だが、ここまで4連敗を喫していた。その責任と出直しの意味で、東洋太平洋ウェルター級王座を返上、丸腰でこの試合に臨んでいる。
対する赤コーナーは鈴木悟だ。かつてボクシングで日本ミドル級タイトルを2度獲得、シュートボクシングでもスーパーウェルター級タイトルを腰に巻いている。いまやこのリングの“顔”の一人と言っていい選手だ。
勢いの差は明白。入場時の声援も鈴木のほうが大きかった。そんな状況で始まった試合は、しかし宍戸が1Rわずか90秒でKO勝利を掴むことになった。
鮮やかなバックハンド・ブローを見せた元王者。
ゴング直後に見せたのは、猛ダッシュしての飛びヒザ蹴りだ。
「最近の自分は守りに入っていた。そつなくこなそうという部分があった。だから今日は守りに入らず、攻めることだけ考えました」
そんな気持ちを、試合開始と同時の奇襲に込めたのである。その後も右ロー、左ミドルを連打し、鈴木に得意のパンチを打たせない。それでも圧力をかけてきた鈴木の目の前で、宍戸の身体が一回転した。バックハンド・ブローである。顔面を直撃された鈴木はダウン。立ち上がったところへボディへのバックキック、そしてまたしてもバックブロー。鮮やかな3度の回転技で、宍戸は崖っぷちからの生還を果たした。
セコンドに肩車され、ガッツポーズを繰り返す宍戸。リング下では、ジムの仲間たちが涙を流していた。それは勝利の喜びだけでなく、これまでに喫した4連敗の重さを意味してもいたはずだ。