ロンドン五輪EXPRESSBACK NUMBER
五輪3連覇の吉田沙保里と伊調馨。
対照的だったロンドンまでの道のり。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTetsuya Higashikawa/JMPA
posted2012/08/10 11:55
「北京からの4年間、いろんな事があって。負けを知って、また強くなれたかなと思います」と語った吉田(写真右)。「リオへの4年もあっという間だと思う」と語った伊調(写真左)は、前人未到の4連覇も匂わせた。
ロンドン五輪直前に、足首のじん帯を切っていた伊調。
男子に混じって練習する中で、今まで知らなかった技を知り、理論を学んだ。
レスリングの奥深さに気づくと、現役を続ける意欲が増していった。男子合宿に参加したことさえある。もしかすると……練習に対して自発的に取り組んだのは、初めてだったかもしれない。
伊調にとって、新しいスタイルにチャレンジし、その成果を発揮する場がロンドンだったのだ。
そして男子のレスリングから学んだことは、見事にロンドンで体現された。初戦では北京五輪準決勝で苦戦したマーティン・ダグレニアー(カナダ)を一蹴。
「私は4年前とは違うぞと思ってやっていました」
決勝でも景瑞雪(中国)を相手に、「こんなにきれいに決まったのは4年ぶり」という両足タックルを決めるなど圧勝する。
五輪では絶好調に見えた伊調だが、実は8月4日のロンドンでの練習中、左足首のじん帯のうち、1本半を切る怪我を負っていた。スパーリングも試合前まで行なえなかったという。
「万全でやりたかったし、よりによって今かと思いました」
それでも相手を寄せつけなかったことが、あらためて、伊調の進化と強さを物語っていた。
「モチベーションが落ちるというのが分からないんです」
吉田は伊調とは異なり、北京五輪後も休むことなくレスリングを続けてきた。
オリンピックのあと、一時的に休養する選手も珍しくない中、アテネから北京へ、北京からロンドンへと休み知らずだった。そして世界選手権でも勝ち続けた。
以前、吉田になぜモチベーションが低下しないのか、休もうとは思わないのかと尋ねたことがある。吉田は即答した。
「何度も聞かれますが、モチベーションが落ちるというのが分からないんです」
そう明るく答えた吉田だったが、危機感を抱いていた人もいた。吉田を大学生の頃から指導してきた全日本女子の栄和人監督だ。
「練習っぷりや態度を見ていても、2度オリンピックで金メダルを獲って満足感があるんじゃないか。そんな風に感じるんですよ。言ってもなかなか聞かないときもあるし」
成績だけ見れば強さは変わらない。それでも指導する立場から見ると、どこか以前とは違うように見えていたのだ。
それが現実となって表れたのが、今年5月のワールドカップだった。ロシアの若手選手ワレリア・ジョロボワに敗れたのだ。
4年ぶりの敗戦だった。