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<ロス五輪以来の表彰台を目指して> バレーボール女子日本代表 「メダルへのラストピース」
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byMichi Ishijima
posted2012/07/07 08:01
“あと1敗で脱落”の瀬戸際から始まった逆襲。
あと1敗すれば完全にメダル争いから脱落する。その瀬戸際から日本の逆襲が始まった。
まずは韓国を3-0でくだし、北京五輪女王、ブラジルとの大一番を迎えた。
強打をしつこく拾い、セッターの竹下佳江が正確なトスにして、木村や江畑幸子が硬軟織り交ぜたスパイクで切り返す。一進一退の中、日本のピンチを救ったのは、身長159cmの竹下のブロックだった。ブラジルのセットポイントで、竹下がレフトスパイクをシャットアウトし24対24とデュースに持ち込むと、木村が続けてスパイクを決め、逆転で第1セットを先取した。
第2セットは劣勢の場面で荒木のブロックが流れを変えた。身長196cmのセンター、タイーザ・メネセスをシャットアウト。その後ブラジルにミスが出て、日本が逆転した。
ブラジルの名将、ジョゼ・ギマラエスはいらだっていた。今大会はチームの調子が上がらず、アメリカ、イタリアに敗れた。しかもフルセット勝ちが多いブラジルは勝ち点で伸び悩んでいた。
北京女王・ブラジルを自滅に追いこんだ日本の粘り。
イライラの充満するチームの中でかろうじてもちこたえていた最後の糸が、日本の粘りによって断ち切られたのか、負けられない焦りからか、第3セットはブラジルがチャンスでミスを連発。最後は木村のスパイクが女王の追い上げを断ち切り、日本が世界ランキング1位のブラジルをストレートで破った。
負けられない戦いは最終ラウンド、東京へと続く。3敗をキープしていた日本は、ドイツ、アメリカに勝てば、他チームの結果次第で五輪切符獲得の可能性がもう一度膨らむ。
第10戦、同じく3敗のドイツとの試合は、第3セットから出場した、'11年代表初選出の21歳、新鍋理沙が、木村、江畑に次ぐ16得点を挙げて存在感を示す。第3戦の中国戦では第5セットにサーブで狙われて崩され、試合後のミックスゾーンでポロポロと涙をこぼしていた。日の丸を背負っての過酷なメダル争いは荷が重いかのように見えた。
後半戦の山場であるブラジル戦とドイツ戦で、新鍋は先発を外れた。そのまま結果を出していなければ、大舞台で力を発揮できなかった選手、で終わっていたかもしれない。しかし悔しさを力に変え、存在をアピールした。
ドイツ戦の後、木村は「どうやったら点を取れるかという形ができてきている」と手応えを語った。一体感は高まり、ベンチのメンバーも含めた全員の勝負どころでの意思統一もなされていた。一歩一歩、メダルを獲るにふさわしいチームへステップアップしていた。
五輪切符は消滅。それでも眞鍋監督が説いたアメリカ戦の意義。
大会最終日、銅メダルと五輪切符の行き先は、日本と中国に絞られた。しかし日本戦直前に行なわれた試合で中国がドイツを3-0で破り、イタリア、アメリカに続く3枚目の切符を手に入れた。最終戦で日本がアメリカに勝っても、もう切符はない。
眞鍋はアメリカ戦に臨む選手たちに言った。
「日本が3位に入ることはなくなった。でもオリンピックに行った時に、アメリカと当たる可能性は十分ある。だから、オリンピックのセミファイナルだと思って戦おう」
鼓舞するような激しい口調ではなく、いつも通り、穏やかに語りかけた。それがかえって自然に、選手たちの胸にスーッとしみ入った。