F1ピットストップBACK NUMBER
天才達と戦う“フェラーリの”浜島裕英。
敵はニューウェイ? それとも……。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2012/06/29 10:31
「フェラーリでチャンピオンを獲った二人に囲まれるアロンソ選手の男泣きの表彰式は最高でした。こちらまでウルッと」と自身のツイッターでコメントした浜島裕英。
フェラーリの伝統が消極的な判断を導くことも……。
第7戦カナダGPでのことだった。レース終盤、先頭を走るマクラーレンのルイス・ハミルトンが上位陣で真っ先に2回目のピットインを行った。残り20周、2番手からトップに繰り上がったフェルナンド・アロンソに対して、フェラーリ陣営がどのような戦術を与えるのか注目された。
タイヤを交換したばかりのハミルトンは、なかなかタイヤが温まらずにペースが上がらない。マクラーレン陣営は「いまアロンソにピットインされれば、逆転を許してしまうかもしれない」と戦々恐々とモニターを見守っていたという。ところが、フェラーリのレースエンジニアが下した判断は、「ステイアウト」。つまり、ピットインせずに、そのまま最後まで走りきるという作戦だった。目の前の順位を守ろうとするいかにもフェラーリらしい判断だった。
しかし、それは14周後に無残にも敗れ去る。レース後、アロンソは「チームが下した勇気ある判断を誇りに思う」とメディアの前で大人の対応を見せたが、それが本心でないことは身内に「もっとうまくやっていれば勝てた!!」と怒りをぶつけていたことでもわかる。伝統あるチームでは、時にワールドチャンピオンですら思い通りに物事を運ばせてくれないことがある。チームに加入した浜島がこの6カ月戦ってきた相手は、ライバルたちだけではなく、この伝統とも戦っていた。
リスク回避の制限下でも結果を残すアロンソの実力。
その悪しき伝統は、第8戦ヨーロッパGPでも根強く生き残っていた。土曜日の予選Q2。トップからコンマ3秒差に12人がひしめき合った激戦の中、フェラーリは1アタックではなく、同じタイヤで2周連続アタックさせるのである。アタックの回数が増えれば、渋滞に遭うリスクが減る。だが、1周分多く燃料を搭載するため、タイムが伸びない可能性もある。
「フェラーリなら、それでもQ3へ進める」
伝統のチームにありがちな過信だった。
そして、その伝統を背負って、そのヨーロッパGPで予選11番手から見事な優勝を遂げたアロンソを、浜島は絶賛した。