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プレミアリーグから美学が失われ、
ゲルマン魂も消えた、CL決勝の真実。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byBongarts/Getty Images
posted2012/05/22 10:32
勝負が決したピッチに座り込むバイエルンの選手達。ユップ・ハインケス監督は「チェルシーを祝福することしかできない」とコメント。
あまりにも素直過ぎた……バイエルンの攻撃。
とはいえ、一方のバイエルンとて、“サッカーの神様”を一目惚れさせるような、美しいサッカーをしていたわけではない。
この日、バイエルンは守備陣3人が出場停止のため、シュバインシュタイガーとクロースがダブルボランチを組まざるをえなかったのだが、逆にこれがはまった。技術がある2人がどんどんボールに絡んで、パスを散らし、2列目のリベリー、ロッベン、ミュラーが何度も決定機を作った。
だが、それでも1点しか奪えなかったのは、あまりにも攻撃が“素直”すぎたからだ。バイエルンは中盤ではパスをつなげるものの、ゴール前に迫るとどうしてもリベリーとロッベンのドリブル突破に頼ってしまう部分がある。個人の力に頼った“剛”の攻撃だけでは、相手に読まれやすい。
バルセロナのような相手の力をいなして、その逆を突くような“柔”の攻撃はあまり見られなかった。
ハインケス監督は人心掌握には長けているが、戦術的にはオーソドックスすぎる。バイエルンがさらに上を目指すには、ドルトムントのクロップ監督のような、ドイツの新世代の理論家を呼ぶことが必要ではないだろうか。
ドイツサッカーの神髄“ゲルマン魂”は消えたのか!?
また、今回の決勝では、ドイツサッカーの根幹を揺るがしかねない問題も明らかになった。
“勝利のメンタリティー”、いわゆるゲルマン魂の消失だ。
かつてドイツといえば、テクニックはないが、大一番で負けない驚異的な勝負強さがあると言われ続けてきた。だが、気がつけば2001年のバイエルンがCL決勝でバレンシアに勝ったのを最後に、国際舞台のタイトルが途絶えているのだ。クラブも代表も含めて、ドイツは7回も決勝に進みながら、すべて準優勝に終わった。
その歴史を振り返ると、2002年はレバークーゼンがCL決勝でレアル・マドリーに負け、ドルトムントがUEFA杯決勝でフェイエノールトに敗戦。日韓W杯決勝では、ドイツはブラジルの前に屈した。ユーロ2008決勝では、ドイツはスペインに惜敗。2009年のUEFA杯決勝ではブレーメンが敗れ、2010年のCL決勝ではバイエルンがインテルに完敗した。そして今回、7度目の挑戦も失敗に終わった。