野球クロスロードBACK NUMBER
広島・前田健と西武・岸が変わった!?
新しい“悪魔のカーブ”の使い方。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/05/06 13:20
カーブを見せ球にして投球術に磨きをかけた2人。
5月4日の楽天戦、岸は初回に4失点を喫するなど7回途中10安打とピリッとしなかった。メディア的には、「デーゲームに弱いから」と言いたくなるのも当然だろう。
原因はそれではない。3回までの岸は、制球が悪いにもかかわらずカーブを多く投げていた。速いボールはコースを外れ、ストライクゾーンに来るボールが遅いカーブであれば、狙いが外れたとしてもプロなら簡単に打ち返せるものだ。
それが続けば早々にノックアウトされていただろう。ところが、4回からはカーブを控え、ストレート中心の投球に切り替えたことで、楽天打線の狙いを外すことができ、以降3回1/3を1安打と立ち直った。
前田の場合は、今年に入り格段にストレートの割合が増えた。「よくなかった」と本人が語る5月3日の横浜戦でも、カーブは全129球中、たったの11球。だが、ストレートとスライダーが中心だったことで、この11球は効力を発揮した。
横浜各打者の目が慣れてきた中盤から、1、2球目でカーブを見せる。相手を幻惑したか、それまではひとりに対し多くの球を投げていた前田だったが、早いカウントでアウトを稼げるようになった。
“本物”になったのはカーブではなく、投手なのだ。
2人のこの投球スタイルは、カーブという存在以上の効果も生み出す。
ともにストレートは140キロ台後半、スライダーは130キロ前後。これに、変化球で最も球速の遅い110キロ程度のボールが加わることで、最大約40キロのスピード差を操れることになる。
前楽天監督の野村克也氏は、「打者への印象付けが大事だ」と口すっぱく言っている。だからといって、「持ち球にはカーブもある」といった印象ではだめだ。「得意球はカーブ」だと相手に思わせなくてはならない。この日の岸と前田は、後者を意識させたことによって、本来ならば黒星が付いていたかもしれない投球内容を、最善の方向へと軌道修正することができた。
要するに、そのカーブが「本物」なのではなく、カーブを効果的に投げ分けられるようになった岸と前田が「本物」なのだ。
大きな弧を描きながら緩やかに地面へ着地しようとする、あの一見やる気のないカーブという変化球。見せ球でもない。かといってウイニングショットでもない。だが、徐々に相手を敗北という沼へと引き込んでいく。
その投手の球種が増えれば増えるほど、より厄介な存在となっていく。カーブとはそんなボールなのかもしれない。