MLB東奔西走BACK NUMBER
統一球はメジャー球より飛ばない!?
MLB側から考える本塁打減少の理由。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byKyodo News
posted2012/05/13 08:01
統一球の導入前とその後で、ほとんど成績が変わっていないターメル・スレッジ。昨年は故障で出場試合数を減らしたが、本塁打も20本以上(打率は向上)という活躍をみせていた。
本塁打だけではなく、守備でも魅了するメジャーリーグ。
それでも、5月6日時点での平均観客動員数は2万9738人と、ほぼ昨年(3万366人)に近い数字で推移している。このデータが指し示すように、野球の魅力は本塁打だけではない。
例えば、前述のようにメジャーでは達成頻度が増している無安打無得点試合。
過去10年間で11試合も達成されている。まさに“投高”の象徴的出来事だが、その現場に立ち会ったファンたちの盛り上がりは尋常ではない。投手の投球はもちろん、それを支える野手の好守備など、そのすべてがファンを魅了するのである。
しかし、日本では2002年以降、無安打無得点試合の達成はわずか5度。しかも2006年9月16日に中日の山本昌投手が達成してからは、今年、4月6日に広島・前田健太投手1人が達成しているのみ。
むしろ投手の方に記録達成を目指し、更なる研鑽を求めてもいいだろう。そして、安打性の当たりをも華麗に処理してしまうような、チーム全体の守備力向上も必要となってくるだろう。
打撃に関しては、1998年の横浜が誇った“マシンガン打線”を思い出してほしい。この年横浜は、比較的狭い横浜スタジアムを本拠地にしながら、年間本塁打数はリーグ3位の100本だったのに対し、得点、安打数、二塁打数、三塁打数がともにリーグ1位だった。ここぞという時の集中打とスピードある攻撃展開で野球ファンを大いに魅了していたのだ。
これは本塁打が減少傾向にある、現在のメジャーの攻撃スタイルにも繋がっている。
メジャーの中距離打者が日本で“大砲”に変貌するわけ。
また、統一球導入以前よりずっと感じていたことだが、メジャーで取材していた選手が外国人助っ人選手として日本に行き、“変貌”してしまうケースが多々ある。
例えば現在、日本ハムに在籍するターメル・スレッジ選手がその1人だ。彼はメジャーで取材していた当時は、明らかな中距離打者だった。
しかし、日本に行った途端、本塁打を量産。“大砲”とまではいかないが、クリーンアップの長距離打者としての地位を確立している。下の表にまとめたように、彼のシーズン別成績を比較すれば明白だ。
シーズン | チーム | 試合数 | 本塁打 | 長打率 |
---|---|---|---|---|
2004 | エクスポズ | 133 | 15 | .462 |
2005 | ナショナルズ | 20 | 1 | .378 |
2006 | パドレス | 38 | 2 | .357 |
2007 | 100 | 7 | .360 | |
2008 | 日本ハム | 113 | 16 | .473 |
2009 | 117 | 27 | .529 | |
2010 | 横浜 | 129 | 28 | .488 |
2011 | 95 | 20 | .481 |
日本ハム入団時に前年の倍以上となる本塁打を記録している。このデータから、統一球以前のボールは、確実に芯を捕らえなくてもある程度飛ばすことができる、つまり、メジャー球よりも本塁打が打ちやすかったといえるだろう。
これまで本塁打攻勢を主体にしてきた巨人が昨年、今年と苦しんでいるのはそのためだ。個人的にはむしろ統一球の導入で、本塁打に頼りすぎた、大味な試合展開を是正する効果をあげていると好意的に捉えている。